ここでいう「やりたいこと」とは、職業名や将来の夢のことではなく、条件がそろえば頼まれなくても自分から時間を使ってしまう活動のことである。 この定義に変えると、探す対象が「頭の中にあるはずの答え」から「すでに残っている記録」へ移る。この記事では、やりたいことを直接探す前に整理しておく2つ——避けたい条件と頼まれずにやっている行動——を、直近1か月の記録から取り出す手順を書く。紙2枚と、スマホのカレンダー・利用履歴があれば実行できる。
空欄のまま閉じるワークシート
転職サイトの適職診断を最後まで進め、結果に並んだ職種名を見ても「そうかもしれないし違うかもしれない」としか思えない。書店で買った「やりたいこと探し」の本の巻末ワークを開き、「あなたが時間を忘れて没頭できることは何ですか」の欄で手が止まる。10分考えて、埋まらないまま本を閉じる。
友人に聞かれれば「そんなに大きな望みはない。安定していればいい」と答えるが、口に出したあとで、それも本心なのか、答えを持っていないことを隠すための言葉なのか分からなくなる。こういう止まり方をしたことがある人もいる。
出てこないのは、いきなり上位の言葉を1語で求められているから
「やりたいこと」は、活動・条件・目的をまとめて1語に圧縮した上位概念である。上位概念は、下の材料がそろって初めて言葉になる。材料がないまま1語を出そうとすると、記憶と願望から作文するしかなく、書いた瞬間に「本当か?」という疑いが立ち上がる。ワークシートが空欄で終わるのは、意欲の問題ではなく、この順番の問題である場合がある。
そこで順番を入れ替える。先に下の材料を2つ作り、そのあとで1文にする。材料は次の2つで、どちらも記憶ではなく記録から拾える。
- 避けたい条件: どういう状況だと自分が消耗するか。「やりたいこと」より即答しやすい。
- 頼まれずにやっている行動: 誰にも指示されていないのに時間を使っていた行動。願望ではなく実績なので、疑いが立ち上がりにくい。
手順: 前半30分・後半30分の2回に分ける
準備するもの: 白紙2枚、ペン、直近1か月分のカレンダー、スマホの利用時間の画面、購入履歴。1日でやりきらず、前半と後半を別の日にしてもよい。
前半30分: 避けたい条件を3つ作る
1. 「早く終わってほしい」と思った場面を20件、事実で書く(15分)
1枚目の紙に、直近1か月で「早く終わってほしい」と感じた場面を、評価を付けずに事実だけで書く。「先週火曜の午前の定例」「金曜夕方の差し戻し対応」というレベルでよい。20件を目標にする。
2. 各行の横に、何が嫌だったのかを1語で書く(10分)
時間帯・人数・割り込み・締切の近さ・成果が見えない・決定権がない、といった1語を、各行の横に書く。ここでは正確さより速度を優先し、迷ったら書かずに飛ばす。
3. 同じ語が3回以上出たものを3つ選び、条件文にする(5分)
「割り込みが多い状況だと消耗する」のように、「〜だと消耗する」の形で3つ書く。これが避けたい条件である。
後半30分: 頼まれずにやっている行動から動詞を2つ取り出す
1. 誰にも頼まれていないのに時間を使った行動を10件書く(15分)
2枚目の紙に、直近1か月のカレンダー・利用時間・購入履歴を見ながら、指示も締切もないのに自分で時間を使った行動を書く。仕事の外のことでよい。「特定の分野の記事を続けて読んだ」「使っていた道具の設定を作り直した」「後輩の質問に必要以上に長く答えた」など。ここで「立派なこと」を選ばないのが要点で、生産的に見えない行動も同じ資格で並べる。
2. 各行に、その行動の中で何をしていたかを動詞で書く(10分)
調べる・直す・教える・並べ替える・比べる・作る・つなぐ、といった動詞を1つずつ書く。行動そのものではなく、その中で自分がしていた操作を書くのが要点である。
3. 3回以上出た動詞を2つ選ぶ(5分)
最後の5分: 2枚を並べて1文にする
「〈動詞〉を、〈避けたい条件〉のない場所でやる」という1文を作る。たとえば「人が迷う箇所を減らす作業を、割り込みの少ない時間帯でやる」のようになる。これが、現時点で材料から言える「やりたいこと」の作業版である。職業名にはなっていないが、求人票の条件欄や、今の仕事の中で試す範囲を見るときには、職業名よりこちらのほうが使える。
実際にやるとつまずく点
つまずきやすいのは前半の20件で、10件ほどで手が止まることが多い。1か月では材料が足りない場合、拾う対象を「早く終わってほしいと思った場面」から「予定表に入っていて、当日の朝に気が重かった予定」へ変えると数が出る。感情を思い出す作業から、予定表を見る作業に変わるためである。
もう1つは、後半の動詞の粒度である。「作る」「考える」だけだとほとんどの行動が当てはまってしまい、選ぶ意味がなくなる。目的語をつけて具体化するとよい(「資料を作る」ではなく「人が迷う箇所を減らす」)。粒度が粗いまま進むと、最後の1文も抽象的になり、翌週から何も変わらない。
判断の基準そのものを言葉にする作業は「自分の軸」とは何か。持ち方より先に見つけ方を知る、価値観として言語化する全体の流れは自分の価値観の見つけ方。1人でできる手順の全体像で扱っている。
この手順の、続けにくい点
1回やれば条件3つと動詞2つは出る。ただし材料が直近1か月分しかないため、その月に偶然多かった出来事に引っ張られる。翌月に同じ手順をやると、別の動詞が上位に来ることは珍しくない。
つまり、この1文は1回で確定するものではなく、数か月分を並べて「毎回出てくる動詞はどれか」を見て初めて確からしくなる。ところが、そのための材料——毎週の記録——を自力で取り続けるのが難しい。多くの場合、最初に落ちるのは記録のほうで、次に同じワークをやるときにはまた記憶から書くことになる。自己理解を深める方法。書いて分かる形式のやり方で扱った観察記録も、同じ難しさを抱えている。
LifeOSがこの部分をどう扱うか
LifeOS は、週1回・5〜10分の振り返りに特化したサービスである。決まった項目に短く入力するとAIが「今週の整理」を仮説として返し、記録として残すかどうかは本人が決める。確認済みの記録はつながって残るため、月をまたいで同じ動詞・同じ避けたい条件が繰り返し出ているかを、後から見返せる形になる。上の手順を1回きりで終わらせず、材料を積み上げる部分を引き受ける設計である。
答えを提示するサービスではなく、本人が確認した記録だけが残る。なお、LifeOSは医療・カウンセリングを提供するサービスではない。
よくある質問
やりたいことが1つも思いつかないときは、どうすればいいですか?
思いつかないまま進めてよい。この記事の手順は「やりたいこと」を思い出す作業を含んでおらず、避けたい場面と、実際に時間を使った行動という2種類の記録だけを材料にしている。思いつかない状態のまま、前半30分から始められる。
「やりたいこと」と「向いていること」は違いますか?
一般には別のものとして扱われる。向いていることは他者から見た成果や再現性で測られるのに対し、やりたいことは本人が時間を使ってしまうかどうかで決まる。両方が重なる領域は狭いことが多いため、まずは片方ずつ材料を作り、後で重ね合わせるほうが進みやすい。
適職診断の結果はどう扱えばいいですか?
結論としてではなく、選択肢を思い出すためのきっかけとして扱うとよい。診断は回答時点の自己申告をもとにしているため、その日の気分や、質問の言葉の受け取り方で結果が動くことがある。結果に出た職種名を、この記事の手順で作った「動詞」と「避けたい条件」に照らして、当てはまる部分と当てはまらない部分を分けて見ると使いやすくなる。
