AIに日記を書くときのプライバシー対策とは、サービスを見比べて安全な1つを選ぶことではなく、自分の側で「書かない語」をあらかじめ決めておくことである。どのサービスを使っても、入力した内容は自分の手元を離れる。離れても困らない形に変えてから入力する、という順番にすると、判断が毎回ではなく一度で済む。この記事では、書かない語を3種類に分けて置換ルールを1枚作る手順を扱う。所要時間は15分で、以後は1日30秒である。
書き終えてから、送信ボタンの前で手が止まる
夜、その日にあったことをAIの入力欄に書く。3行ほど書いたところで、同僚の名前が出てくる。実名で書くと具体的になるが、送信ボタンを押す前に少し引っかかる。
イニシャルに直す。今度は職場の状況説明が続いていて、これも読まれたら特定できる気がしてくる。全部消す。残った文章は「今日は疲れた」だけになっている。これでは書く意味がない。
数日これを繰り返して、AIで日記を書くのをやめる人もいれば、気にしないことにして全部書く人もいる。どちらも、判断を毎晩その場でやっている点は同じである。
迷いが消えないのは、基準を決めずに毎回判断しているから
慎重さの問題ではなく、判断の置き場所の問題であることが多い。書きながら「これは書いていいか」を考えると、書く作業と判断する作業が同時に走る。人は同時に2つの作業をすると、安全側(全部消す)か楽な側(全部書く)に倒れやすい。中間の「置き換えて書く」は、その場では思いつきにくい。
もう1つの理由は、危険の種類を1つにまとめて考えていることである。「知られたくないこと」と一括りにすると範囲が無限に広がるが、実際には性質の違う3種類が混ざっている。
| 種類 | 中身 | 扱い |
|---|---|---|
| 他人の情報 | 実名、勤務先、家族構成、他人の病気や事情 | 置き換える(自分の同意で決められない情報のため) |
| 自分の識別情報 | 住所、口座やカードの番号、ID、パスワード、勤務先の機密 | 書かない(置き換えても書く価値がない) |
| 取り消せない出来事 | 自分の身に起きた重い出来事の詳細 | 書く量を自分で決める(後述) |
1つ目は自分だけでは同意を出せない情報である。2つ目は書いても日記の役に立たない。3つ目だけが本当に迷う領域で、ここは「書かない」ではなく「どこまで書くか」を先に決める話になる。
手順: 置換ルールを1枚作る(15分)
工程1. 直近1週間の日記から固有名詞を抜き出す(5分)
AI用ではなく、これまで手元に書いていたもの(メモアプリ、紙、スマホの下書き)を1週間分開く。そこから固有名詞と数字だけを抜き出して、別の場所に一覧にする。人名、会社名、店名、地名、金額、日付。だいたい10〜20個になる。
書いていない人は、直近1週間を思い出して「日記に書くとしたら出てくる名前」を書き出す。
工程2. 一覧を3種類に印をつける(3分)
抜き出した語の横に、上の表の1・2・3を書く。ほとんどは1(他人の情報)になる。2に該当する語が出てきたら、それは日記の題材から外してよい。金額やIDが日記の内容を良くすることは少ない。
工程3. 1の語だけ、置換先を決める(5分)
印が1の語に、置き換え先を1つずつ決める。ここが手順の中心である。
- 人名 → 関係で呼ぶ。「上司」「同僚」「友人」「家族」。同じ日に複数出るなら「同僚A」「同僚B」
- 会社名・店名 → 「取引先」「よく行く店」
- 地名 → 「実家のある町」「職場の最寄り」
- 日付 → 「先週」「一昨日」
決めたら、メモアプリの1画面に「元の語 → 置き換え後」の形で書いて固定表示にする。これが置換ルールである。10行前後に収める。多いと見なくなる。
工程4. 3(取り消せない出来事)の線を1行で決める(2分)
ここは語の置き換えではなく、書く深さを決める。おすすめは次の形である。
出来事の名前までは書く。詳細は書かない。今の自分の状態は書く。
たとえば「その件で今週は集中できなかった」は書き、出来事の具体的な経緯は書かない。日記の目的が、後から自分の傾向を眺めることであれば、詳細がなくても成立する。詳細を書きたい気持ちが強い日は、AIではなく手元の紙に書いて、AIには要約だけを渡すという分け方もできる。
工程5. 送信前の30秒チェック(毎日)
書き終えたら、送信の前に置換ルールの画面を開き、左列の語が本文に残っていないか目で追う。30秒で終わる。慣れると、書いている最中に置き換わるようになる。
実際にやると、ここでつまずく
つまずくのは工程3ではなく、運用してから2週間目である。置換ルールに載っていない新しい名前が出てくる。新しい取引先、初めて行った病院、初めて会った人。そのたびに手が止まり、「ルールを作った意味がない」と感じやすい。
これは失敗ではなく、ルールが育つ過程である。新しい語が出たら、その場で置換先を決めずにいったん「(名前)」と伏せて書き進め、書き終えてからルールに1行足す。書いている最中にルールを更新しようとすると、日記が中断されて続かなくなる。
もう1つのつまずきは、置き換えた文章が味気なく感じることである。「田中さんに言われた一言」が「同僚に言われた一言」になると、当時の感触が薄れる。ここは割り切りが要る。日記を後から読み返す目的が「その日を再現すること」なら置き換えは向かないし、「傾向を見ること」なら関係語で足りる。自分がどちらのために書いているかを決めておくと、迷いが減る。日記そのものが続かない場合の原因は日記が続かない人のための方法で扱っている。
続けにくいのは、判断が毎日ゼロに戻るから
この手順の弱点は、ルールを自分で保守し続ける必要があることである。使うサービスを変えれば作り直しになるし、書く相手(AI)が変われば安全だと感じる線も動く。AIに日記を書く手順そのものはChatGPTで日記を書く手順に、AIと振り返りの全体像はAIジャーナリングとはにまとめてある。
また、この手順はあくまで自分の入力を減らす対策であり、サービス側の取り扱いを変えるものではない。使うサービスの利用規約とデータの扱い、学習利用のオプトアウト設定は、別途自分で確認する必要がある。
LifeOSはこの部分をどう扱うか
LifeOSは、対話を通じて自分の価値観を言葉にし、週1回の振り返りで更新していく日本語のサービスである。上の手順との関係でいうと、扱うのが出来事の詳細ではなく「何を大事にしているか」の側であるため、固有名詞を細かく書き込む必要がそもそも少ない設計になっている。書いた内容の保存と削除の扱いは、サービス内の説明で確認できる。
出来事の記録そのものを詳しく残したい場合は、別のツールのほうが合う。
よくある質問
イニシャルに変えれば十分ですか
イニシャルは短い置き換えだが、周辺の情報(勤務先、役職、時期)と組み合わせると人を絞り込めることがある。関係で呼ぶ形(「上司」「同僚A」)のほうが、絞り込みに使える手がかりが減る。手間は同じなので、関係語をおすすめしている。
全部書かないと、AIの返答が浅くなりませんか
浅くなる場合はある。ただし浅くなるのは、固有名詞が消えたからというより、状況の説明が消えたときである。「取引先との打ち合わせで、こちらの案が通らなかった」のように、名前は伏せて状況は残す書き方であれば、返答の具体性はあまり落ちない。
すでに実名で書いてしまったものはどうすればいいですか
多くのサービスには、過去のやりとりを削除する機能と、履歴を保存しない設定がある。まず使っているサービスの設定画面でその2つを確認するのが先になる。削除の範囲や反映のタイミングはサービスによって異なるため、規約とヘルプの記載を読んで判断することになる。
