書く範囲を先に決めるとは、何を書くかを決めることではなく、「今週は扱わない領域」を1つ名指しして、書き始める前に外しておくことである。 外すと決めた領域については、ぼかして書くことも、触れずに済ませることも、後ろめたさの対象ではなくなる。残った範囲だけを書けばよくなるので、そこは具体的に書ける。この記事はその外し方と、外した後の書き方を扱う。所要は20分で、必要なのはメモ1枚と対話型AI1つである。
なお、他人に読まれることへの不安から書けない場合は、対処の入口が別になる。その場合はAIに日記を書くときのプライバシーのほうが近い。この記事が扱うのは、読まれる心配とは別に、自分が書く手を止めてしまうときの範囲設定である。
3行書いて、全部消して閉じる
夜、AIの入力欄に今週のことを書こうとする。書き始めて3行ほど進んだところで、避けて通れない話に差しかかる。職場のあの件、家族のあの会話、自分でもうまく言えていない気持ち。
そこで手が止まる。ぼかして書くと嘘になる気がする。正直に書くと、画面の文字として残るのが重い。いったん全部消して、「今週も特に変わりなし」とだけ打って閉じる。
翌週も同じところで止まる。数週続くと、AIを開かなくなることがある。書けないから開かないのか、開かないから書けないのか、自分でも分からなくなる、という人もいる。
止まるのは、書くかどうかを書きながら判断しているから
止まる位置は、たいてい毎回ほぼ同じ場所である。これは意志の強さの問題というより、判断の置き場所の問題であることが多い。
書きながら「これは書くべきか」を考えると、書く作業と判断する作業が同時に走る。人は同時に2つやると、極端な側に倒れやすい。全部書くか、全部消すかのどちらかになり、その中間にある「この領域は今週扱わないと決めて、残りを具体的に書く」が選ばれにくい。
もう1つ、正直さを「全部書くこと」と同じ意味で捉えていると、一部を書かない時点で失敗になる。そうなると書き始めること自体が重い。ここを「扱う範囲をあらかじめ宣言したうえで、その中では具体的に書く」という定義に置き換えると、一部を書かないことが失敗ではなくなる。範囲を先に宣言する形にすれば、判断は書く前に1回で済む。
手順: 扱わない領域を1つ外してから書く(20分)
1. 止まる場所に名前を付ける(5分)
過去に手が止まった回を思い出し、止まった話題を短い名詞で書く。内容は書かない。名前だけでよい。
- 仕事の人間関係
- お金のこと
- 進路の迷い
3つ以上出てきても、全部書き出す必要はない。直近で止まった2〜3個で足りる。ここで内容を書き始めると、結局いま書けない話に踏み込むことになるので、名詞で止める。
2. 今週の「扱わない領域」を1つだけ選ぶ(3分)
1で挙げたもののうち、いま扱うと手が止まりそうなものを1つ選ぶ。複数選んでもよいが、最初は1つにするほうが残る範囲が広くて書きやすい。
3. 外すことを1行にする(2分)
メモの先頭に、次の形で書く。
今週は「仕事の人間関係」を扱わない。触れずに書く。来週また決め直す。
「来週また決め直す」を付けておくと、永久に避ける宣言にならない。外した領域は消えたわけではなく、今週の対象から外れただけ、という扱いになる。
4. 残った範囲で、出来事を3件書く(5分)
外した領域に触れない範囲で、直近7日の出来事を1行1件で書く。評価語は入れず、動作と数字だけにする。
- 火曜 資料を2回作り直した
- 木曜 昼を抜いた
- 金曜 1時間早く上がった
外した領域に接している出来事は、接している部分を書かずに、動作だけ書く。「木曜 昼を抜いた」は、理由に触れなければ、外した領域を開かずに書ける。
5. AIに渡すときは、3の1行も一緒に渡す(5分)
入力欄に、3で書いた「今週は〜を扱わない」の1行を先頭に置き、4の3件を続けて貼る。そのうえで質問を1つだけ書く。
上の3件について、事実の確認だけをしてください。原因の推測はしないでください。
外した領域に踏み込む質問をAIから受けた場合は、答えずに「今週は扱わない」とだけ返して先へ進む。ここで説明を足す必要はない。
やってみると、ここでつまずく
実際にやると、4で「外した領域に触れない出来事が3件も無い」となることがある。1週間の大半がその領域に接していると、こうなる。その場合は、期間を7日ではなく直近2日に縮めると、細かい出来事が拾えるようになる。長い期間を見ると、大きい話ばかりが目に入る。
もう1つ、3の1行を書いた直後に、外したはずの領域について考え続けてしまうことがある。外すと決めても、頭から消えるわけではない。これは想定内で、書かないことと考えないことは別である。手順としては、考えが戻ってきたら4の3件の続きに戻る、という形でよい。
続けにくいのは、毎週決め直す必要があるから
この手順自体は20分で終わる。難しいのは2回目以降である。
外す領域は週によって変わる。先週外したものが今週は書ける場合もあるし、その逆もある。だから毎週1〜3をやり直すことになるが、実際には「先週と同じでいいか」と流してしまい、気づくと同じ領域を何か月も外したまま、という形になりやすい。
また、外した領域があることも、外した理由も、メモには残らない。数週後に読み返したとき、なぜその週の記録が短いのかが分からなくなる。外したという事実が記録に残っていないと、後から見て「書けていない週」に見える。書かない日をあらかじめ設計する考え方は日記が続かない人のための「書かない日を設計する」方法にあるが、そちらは頻度の設計で、この記事は1回ぶんの範囲設計という違いがある。
LifeOSがこの部分をどう扱うか
LifeOSは、AIとの対話で自分の価値観を言葉にし、週1回の振り返りでそれを更新していく日本語のサービスである。
対話は、白紙に自由に書く形ではなく、問いに答える形で進む。答えたくない問いは飛ばして進められるため、「全部書くか、やめるか」の二択になりにくい。扱う範囲を毎回自分で設計しなくても、その週に答えられたところだけが残っていく形になっている。
なお、LifeOSは診断や治療、カウンセリングを提供するサービスではない。扱いにくい事柄そのものを解決する道具ではなく、書ける範囲を週ごとに積み上げていくための形式を持っている、という位置づけである。
この記事の手順はメモとAI1つで今日そのまま実行できる。まず1回やってみて、毎週決め直す部分が重いと感じた場合に試す順番でよい。3分ほどの対話から試せる。
AIを振り返りに使う全体像はAIジャーナリングとはにまとめてある。
よくある質問
一部を書かないのは、振り返りとして意味が薄くなりませんか?
範囲を狭めると扱う対象は減るが、残った範囲の具体性は上がりやすい。抽象的な3行が10週ぶん並ぶより、具体的な3件が10週ぶん並ぶほうが、後から読み返したときに差分が見える。狭めたこと自体を記録に残しておけば、後で範囲を広げるかどうかも判断できる。
他人に読まれるのが不安で書けない場合も、この手順でよいですか?
目的が異なる。読まれることへの不安が理由なら、固有名詞や状況の書き換えルールを先に決めるほうが直接的で、その手順はAIに日記を書くときのプライバシーにある。この記事は、読まれる心配とは別に手が止まる場合の範囲設定を扱っている。
外した領域を、ずっと外したままになりそうです。
そうなることはある。対策として、3の1行に日付を書いておき、同じ領域を外した週が何回続いたかだけ数える方法がある。回数を数えるだけで、書くかどうかは決めない。なお、書くこと自体がつらいと感じる状態が続く場合、この手順で扱える範囲を超えていることもある。その場合は無理に続けず、信頼できる人や専門の窓口に相談するという選択もある。
