「何を大事にしたいですか」の欄が埋まらない
年始の目標シートでも、面談のワークシートでも、「あなたが大事にしたいことは何ですか」という欄がある。家族、健康、成長、時間。書いてはみるが、書いた瞬間から他人事に見える。
来週になると、書いた内容と真逆の判断をしている。健康と書いた週に深夜まで作業を引き受け、時間と書いた月に予定を詰めている。書いた言葉が行動を止めてくれない——この状態で何年か過ごしている人もいる。
言葉が浮かないのは、判断していない場面で考えているから
大事にしたいことを考えるのは、たいてい静かな机の前である。締切もなく、誰からの依頼もなく、天秤にかけるものが何もない。その状態で出てくるのは、大事にしたいことではなく、大事にしたいと書いておくと据わりのいい言葉である。
一方で、実際に何かを守った瞬間は別のところにある。誘いを断ったとき、依頼を引き受けなかったとき、逆に嫌々引き受けたとき。そこでは必ず何かと何かを天秤にかけている。天秤にかけた記録は、日記を書いていなくても、断りのメッセージや空白のままの予定として残っている。
つまり、思い出す作業ではなく、残っている判断から逆算する作業に切り替えられる。以下はその手順である。理想の姿から降りてくる形ではないので、出てくる言葉はやや地味になる。
なお「これからやりたいこと」を決めたい場合は、逆算ではなく別の入口のほうが向いている。その手順はやりたいことが分からないときに、先に整理する2つのことにまとめてある。
手順(約70分・分割可)
1. 断った・引き受けた事実を12件集める(20分)
思い出そうとしない。次の4か所を開いて、直近2か月ぶんを機械的に拾う。
- カレンダー: 一度入れて消した予定、打診されたが入れなかった枠
- メッセージの送信履歴: 自分が送った「すみません」「今回は」「難しそうです」を検索する
- 未返信のまま流したメール・DM
- 引き受けたあとに予定を動かした週
1件1行で書く。書式は「いつ / 何を / 断ったか引き受けたか」だけでよい。
8月中旬 / 週末の勉強会の運営 / 断った
8月下旬 / 別部署の資料レビュー / 引き受けた
9月上旬 / 友人の引っ越し手伝い / 返事をせずに流した
12件に届かなければ8件でよい。逆に20件以上出た場合は、印象の強い順ではなく日付の新しい順で12件に切る。 印象で選ぶと、後の工程で偏る。
2. 各件に「何を守ろうとしたか」を文で書く(20分)
1件ずつ、次の書き出しで1行足す。
このとき自分は( )を守ろうとした。
ここで熟語にしない。「自由」「健康」ではなく、「日曜の午前に何も予定がない状態」「その週に決めたことを週内に終える見通し」のように、場面が浮かぶ長さで書く。「忙しかったから」は理由として採用しない。 忙しさは結果なので、その時間が何で埋まっていたか、なぜそれを先に置いたかまで下ろす。
引き受けた件にも同じことを書く。引き受けたときに守ろうとしたもの(関係、評判、後で頼みやすくなること)も同じ天秤に載っている。
3. 後悔の有無で3つに仕分ける(10分)
12行を、今の時点の感覚で3つに分ける。
- A: 断って(引き受けて)よかったと今も思う
- B: 後悔している
- C: どちらとも言えない
判定に迷ったら C に入れる。この仕分けは正しさを測るためではなく、次の工程で見る対象を A に絞るためだけに使う。
4. A の行から、2回以上出た「守ろうとしたもの」を3つ取り出す(15分)
A に入った行の2行目だけを読み返し、言い方が違っても同じものを指している記述をまとめる。2回以上まとまったものを上から3つ取る。ここで初めて短い言葉にしてよい。
そのうえで、各語に崩れる場面を1行足す。
自分の週の見通し ── ただし、頼んできた相手が直属の上司のときは崩れる
日曜の午前の空白 ── ただし、3か月に1回程度なら手放せる
準備した状態で人前に出ること ── ただし、社内の少人数なら準備なしでもよい
この「ただし」の行があるかどうかで、使える言葉かどうかが分かれる。例外のない言葉は、次に迷ったときに適用できずに終わりやすい。
5. 来月の予定に、同じ判断が来そうな1件を印す(5分)
カレンダーを翌月まで進め、手順4の3語のどれかが天秤に載りそうな予定を1件だけ探して印をつける。見つからなければ空欄でよい。この印は決意ではなく、後で答え合わせをするための目印である。
実際にやると、ここでつまずく
最初にやったとき、手順2の12行のうち9行に「時間がなかった」と書いていた。それでは何も逆算できないので、1行ずつ「その時間は何で埋まっていたか」を書き足した。すると、埋まっていたのは仕事ではなく、翌週の準備をしておきたい気持ちだった週が4件あった。守ろうとしていたのは時間ではなく、準備が済んでいる状態のほうだったと分かったのは、この書き足しの後である。
もうひとつのつまずきは、手順3で B(後悔している)が半分以上になった場合である。そのときは A が少なすぎて3語を取り出せない。その場合は対象期間を2か月から6か月へ広げて、件数を足す。B の行だけを集めて分析したくなるが、後悔の理由は複数の要因が混ざりやすく、逆算の材料としては読みにくい。
この手順の続けにくい点と、LifeOSがそこをどう扱うか
この作業の弱点は、1回やって終わりになりやすいことである。手順4で出た3語は、その2か月の判断から取り出したものなので、仕事の状況が変われば合わなくなる。手順5で印をつけた予定も、来月になれば見返す理由がなくなっている。
本来は、新しい判断が起きるたびに1行だけ足して、数か月に1度だけ3語を見直すのが合っている。ただし、そのために専用のノートを開き続けるのは、多くの場合続かない。判断は平日の細かい場面で起きるので、そのたびに記録の場所を開く運用は重い。週1回の振り返りの中に置く形にすると負荷は下がる(その組み立て方は週1回の振り返りのやり方にある)。
LifeOSは、この「足す」と「見直す」を対話の側に寄せている。週1回の振り返りで、その週に断ったこと・引き受けたことを聞かれる形になっていて、答えた内容から繰り返し出てくる語がまとまっていく。結果として、手順4を毎回自分でやり直さなくても、更新された候補が手元に残る。ただし、出てくるのはあくまで候補であり、採るか捨てるかを決めるのは書いた本人である。手順だけを紙で回しても同じことはできるので、記録の置き場所を1つに寄せたい場合の選択肢としてLifeOSを3分試してみてほしい。
言葉を先に決める方法から入りたい場合は、自分の価値観の見つけ方。1人でできる手順の全体像のほうが近い。
FAQ
断ったことが思い出せないときはどうすればいいですか?
思い出そうとせず、記録から拾う。断りのメッセージを送っていない場合でも、「一度入れて消した予定」「返信しなかったメール」は判断の跡である。それでも8件に届かない場合は、期間を6か月へ広げるか、「引き受けたが気が進まなかった件」も対象に含める。引き受けた側にも同じ天秤が載っている。
出てきた言葉が「家族」「健康」など平凡でも意味はありますか?
語そのものより、手順4で足した「ただし」の行のほうが後で効く。「健康 ── ただし繁忙期の2週間は後回しにする」と書けていれば、それは一般的な健康観ではなく、自分の判断の条件になっている。平凡に見える語でも、条件が固有であれば使える。
大事にしたいことは、いくつ持っておくとよいですか?
一概には言えないが、この手順では3つを上限にしている。4つ以上あると、次に迷ったときにどれを優先するかで再び止まりやすいからである。増やすより、3語の「ただし」を具体的にするほうが、判断の場面では働きやすい。なお、ここで作った言葉は診断の結果ではなく、一定期間の判断から取り出した暫定の記述である。数か月後に合わなくなったら、そのときの記録から取り直してよい。
