コピペした自己分析プロンプトに足す1行とは、AIへの追加指示ではなく、「この質問には、いつの、どの出来事1件だけを材料にして答えるか」を自分の側で先に決めて書いた宣言文のことである。 プロンプト本文は1文字も変えない。冒頭にこの1行を置いてから、上から答えていく。この記事はその1行の作り方と置き方だけを扱う。所要は20分で、必要なのは保存済みのプロンプト1つと対話型AI1つである。
プロンプトそのものを短く作り直す作業は自己分析プロンプトを自作するで扱っている。この記事は逆に、もらってきたプロンプトを削らずにそのまま使うための調整である。
貼った瞬間は良さそうなのに、自分の答えが3行で終わる
SNSやまとめ記事で見つけた「自己分析が深まる質問集」をコピーして、AIの入力欄に貼る。返ってくる1問目は「あなたが仕事で最も充実を感じた瞬間はいつですか」。
打ち始める。「チームで何かを達成したときだと思います」。そこで止まる。もう少し書こうとすると、「思います」「気がします」ばかりが増えていく。5問ほど同じ調子で進んで、返ってきたまとめも「あなたは協調性を大切にしながら成果を求める人です」のような、どこかで読んだことのある文章になる。
プロンプトが悪かったのだと思って、別のものを探す。次のプロンプトでも同じところで止まる。保存したプロンプトの数だけが増えていく、という人もいる。
浅くなるのは、質問の射程が無限に広いまま答えているから
コピペできるプロンプトは、誰が使っても成立するように書かれている。そのため質問の射程――どの期間の、どの範囲の出来事を材料にするか――が指定されていない。「仕事で最も充実を感じた瞬間」は、新卒からいまに至る全期間が対象になりうる。
全期間が対象の質問に答えようとすると、人は記憶を全部並べてから選ぶのではなく、いちばん要約された記憶を1つ出してくる。要約された記憶には、具体的な日付も、やりとりも、数字も付いていない。だから答えが3行で終わる。
これは書き手の内省の深さの問題ではなく、範囲の問題である。範囲が広いほど、出てくるのは抽象的な語になる。逆に「先週の火曜の午後」まで狭めると、抽象的に答えるほうが難しくなる。
AI側の出力も同じ理屈で決まる。抽象的な3行を渡されれば、返せるのは同じ抽象度の分析になる。材料の渡し方そのものを直す話はAIの答えが一般論になるときに変えるのは、前提の渡し方にあるが、こちらはプロンプトを開いたその場で、1行だけで射程を絞るという別の入口である。
手順: プロンプトの冒頭に、射程を固定する1行を置く
所要20分。紙でもメモアプリでもよい。
1. 直近7日から、出来事を3件だけ書き出す(5分)
評価は書かず、動作だけを書く。
- 9/22(月)夕方 見積もりの数字を2回作り直した
- 9/24(水)午前 会議で自分の提案が通らず、言い直さずに終えた
- 9/25(木)昼 後輩からの相談に30分使った
3件でよい。良かった・悪かったの判断は付けない。ここで多く書くと、後で選ぶ作業が増えるだけである。
2. プロンプトの質問数を数える(2分)
貼る予定のプロンプトに質問がいくつ入っているかを数える。10問なら10問のままでよい。減らさない。
3. 「1件しばり」の1行を書く(3分)
次の形に当てはめて1行を作る。
この質問集には、9/24(水)の会議で提案が通らなかった一件だけを材料にして答える。他の出来事は思い出しても書かない。
書き出した3件のうち、いちばん細部を覚えているものを選ぶ。重要そうなものではなく、細部を覚えているものを選ぶ。細部がなければ、次の項目で具体的に書けない。
4. その1行を、プロンプトの上に置いて貼る(1分)
AIへの指示ではないので、AIに読ませても読ませなくてもよい。ここでは同じ入力欄の先頭に置いて、そのまま送らず、自分の回答を書くときの上限として使う。多くの人は、プロンプトを貼って1問ずつ返す形で進めることになる。その場合は自分のメモの先頭にこの1行を書いておく。
5. 各質問に、その1件の範囲だけで答える(8分)
答えられない質問が出てくる。たとえば「人生の転機はいつですか」には、水曜の会議1件では答えられない。そこで「この1件では答えられない」と書いて次へ進む。消さない。空欄にもしない。
10問中4問が「答えられない」になっても、それでよい。残った6問には、1件ぶんの細部が入った答えが書ける。「言い直さずに終えた」「次の議題に移る音が聞こえた」といった語が出てくれば、射程が効いている。
6. 「答えられない」が付いた質問を見る(1分)
ここが成果物になる。答えられなかった質問は、いまの自分の材料では届かない質問である。消さずに残しておくと、次に別の1件で回したときに答えられるようになっているかが分かる。
やってみると、ここでつまずく
実際にやると、5の途中で「1件だけでは狭すぎる」と感じて、別の出来事を足したくなる。ほぼ必ずそうなる。足すと、答えは長くなるが、また抽象度が上がる。抽象度が上がったかどうかは、書いた文に固有名詞・時刻・数字が残っているかで判定できる。足した後の文からそれらが消えていたら、範囲を広げすぎている。
もう1つ、1件しばりの1行を書くところで、「今週はこれといった出来事がなかった」と手が止まることがある。この場合、探しているのが出来事ではなくエピソードになっている。見積もりを2回作り直した、相談に30分使った、というレベルで十分に材料になる。山場のある話を探し始めると、たいてい見つからない。
続けにくいのは、1件を選ぶ手間が毎回かかるから
この手順自体は20分で終わる。難しいのは2回目以降である。
翌週も同じプロンプトを使おうとすると、また直近7日から3件書き出して、1件を選ぶところからやり直すことになる。この「選ぶ」が、実際には毎回いちばん重い。平日に何をしたか思い出せない週は、3件書き出す段階で止まる。
また、1で書き出した3件のメモも、4週もすると散らばる。前回どの1件で回したかが分からなくなると、同じ出来事で2回答えてしまい、2回目は自分の前回の答えをなぞるだけになる。1件しばりが効くのは、使った1件が記録として残っている場合だけである。
LifeOSがこの部分をどう扱うか
LifeOSは、AIとの対話で自分の価値観を言葉にし、週1回の振り返りでそれを更新していく日本語のサービスである。上の手順で毎回かかる「材料を1件選ぶ」「前回どれを使ったか覚えておく」という部分を、サービス側の形式として持っている。
週次の振り返りでは、その週に扱う範囲が対話の側から絞られるため、利用者は白紙から出来事を探すのではなく、提示された問いに答える形になる。答えた内容は日付とともに残るので、次の週に同じ材料を繰り返し使っていないかが見える。プロンプトを保存・管理する作業は発生しない。
一方で、この記事の手順は紙とAI1つで今日そのまま実行できる。まず1回やってみて、続けにくいと感じた部分がある場合に試す順番でよい。3分ほどの対話から試せる。
AIを振り返りに使う全体像はAIジャーナリングとはにまとめてある。
よくある質問
コピペしたプロンプトを短く削ったほうが早いのでは?
削る方法も有効である。ただし削る作業には、どの質問を残すかを判断する時間がかかる。この記事の1行を足す方法は、プロンプトを判断せずにそのまま使うためのものなので、プロンプトを吟味する時間を取れないときに向いている。削って自分用に作り直す手順は自己分析プロンプトを自作するにある。
1件しばりの1行は、AIに読ませたほうがよいですか?
読ませても問題はないが、この1行の主な役割は自分の回答範囲を固定することにある。AIの出力を変えるのが目的なら、事実の行を複数並べて渡すほうが直接的で、その手順はAIの答えが一般論になるときに変えるのは、前提の渡し方にある。この記事とは工程が異なる。
10問中6問が「答えられない」になりました。プロンプトが合っていないということですか?
合っていないとは限らない。答えられない質問が多いときは、選んだ1件の細部を覚えていないか、その質問集が長期の記憶を前提にしているかのどちらかであることが多い。前者なら別の1件で、後者なら「答えられない」を残したまま次回に持ち越して構わない。答えられなかった質問の数そのものは、内省の浅さを示す指標ではない。
