ライフビジョンの作り方。壮大にしないための3つの制約

2026-09-13 | blog

目次

ライフビジョンとは、人生の理想像を宣言した文章ではなく、将来のある1日が具体的にどう過ぎるかを書いた記述である。 宣言ではなく記述なので、達成の可否ではなく、読んで場面が浮かぶかどうかで良し悪しが決まる。この記事では、壮大な作文にしないために期間・登場人物・書式の3つへ制約をかけ、3年後の平日1日を300字で書き上げるまでの手順を扱う。所要は70分である。

書いた翌週には、自分と関係ない文章になっている

年始や、誕生日や、研修のワークで、ライフビジョンを書く機会がやってくる。用紙を前にして、まず「どんな人生を送りたいか」を考える。

出てくるのはたいてい大きな言葉である。「自分らしく働き、大切な人を大切にし、学び続ける」。書き上がった時点では悪くない気がする。ところが翌週に読み返すと、誰が書いても成立しそうな文章になっていて、今週の予定とのつながりが1つも無い。 そのまま引き出しに入り、次の年始まで開かれない。

この結果を、目標設定が下手だからだと受け取っている人もいる。ただ、同じことが何年も繰り返されるなら、原因は個人の技術よりも書き方の側にある可能性が高い。

大きくなるのは、制約が無い問いに答えているから

「どんな人生を送りたいか」という問いには、範囲の指定が無い。期間も、場所も、登場人物も、粒度も決まっていない。範囲が指定されていない問いに答えようとすると、人は抽象度を上げて逃げ場を作る。 抽象度を上げれば、どの未来にも当てはまる文章になり、外れる心配が無くなるからである。外れないが、同時に何も決まらない。

もうひとつ。ビジョンを「達成条件」の形で書くと、書いた瞬間に評価の対象になる。年収、役職、資格。数字が入ると、読み返す作業が進捗の点検になり、進んでいない年には開かなくなる。ここで必要なのは点検ではなく、今月の判断に使える材料である。

そこで、問いのほうに制約を3つかける。期間を3年に切る。登場人物を3人以内にする。達成条件ではなく平日1日の描写で書く。以下の手順はこの3つだけでできている。

なお、過去を並べて傾向を出す作業をしたい場合は、時間の向きが逆なので人生の棚卸しのやり方のほうが近い。今抱えている目標が多すぎて回らない場合は、目標を立てても続かないときの、目標を減らす手順が先にあたる。この記事は、将来の1日を1枚書く作業だけを扱う。

手順(70分)

1. 期間を3年に固定する(5分)

まず、紙の上に日付を書く。今日から3年後の、ある平日の日付である。曜日まで決めてよい。

10年後や20年後を選ばないのには理由がある。10年後は、今の生活からの連続性がほとんど無いため、書ける内容が願望に寄る。1年後は、逆に今の延長線が強すぎて、既存の予定の焼き直しになる。3年は、今の生活の形が変わりうる程度には長く、今の判断とつながる程度には短い。

ここで「3年後に何を達成しているか」は考えない。考えるのは日付だけである。

2. 登場人物を3人以内に絞る(10分)

その日に実際に顔を合わせる、または連絡を取る人を3人まで書き出す。名前でも、続柄でも、役割でもよい。

3人という上限は、書ける範囲を保つためである。人数を制限しないと、「社会」「チーム」「家族」といった集合名詞が入り込み、そこから先は具体的に書けなくなる。集合名詞は1つも使わない。 会社なら特定の同僚1人、家族なら特定の1人に絞る。

3人が思いつかない場合は、1人でも2人でもよい。埋めるために架空の人を足さない。

3. その日の平日1日を、朝から順に300字で書く(30分)

ここが中心の工程である。次の3点を守って書く。

  • 時間順に書く。 朝起きてから寝るまでを、飛ばさずに順番に書く
  • 達成した状態を書かない。 「◯◯を実現している」ではなく、その日に何をしているかを書く
  • 数字を入れない。 年収、体重、フォロワー数、資格の名称は書かない

例を挙げる。

7時に起きる。前の晩に洗い物を済ませてあるので、台所には何も無い。8時半に家を出て、電車で30分。午前は◯◯さんと2人で、先週見つかった不具合の原因を追う。昼は外に出ず、持ってきたものを食べながら1人で資料を読む。午後に打ち合わせが1件あり、そこで自分は決める側ではなく、材料を出す側で座っている。18時に出て、帰り道に本屋へ寄る。夜は家で、家族の1人と翌週の予定だけ確認する。

読み返して、場面が目に浮かぶかどうかだけを確認する。浮かばない箇所は、抽象語が残っている箇所である。「充実した午後を過ごす」のような1文を見つけたら、その1文を消して、代わりに具体的な動作を1つ書く。

300字という分量にも意味がある。長く書けるだけ書くと、書いた翌週に全部は読み返さない。読み返すのに30秒しかかからない長さが、月1回開くための条件になる。

4. 今月の判断に効く1行を抜く(15分)

書いた300字を読み、今月の自分の予定と食い違っている箇所を1つ探す。

例の文章なら、「午後の打ち合わせで、決める側ではなく材料を出す側で座っている」が、今月の実際の仕事と食い違っているかもしれない。あるいは「18時に出る」が食い違っているかもしれない。

見つけたら、次の形で1行だけ書き足す。

この3年後の1日に近づく方向で、今月ひとつだけ変えるなら( )である。

変えるのは1つだけにする。 2つ以上書くと、月末にどちらも動いていない状態になりやすい。この1行が、ビジョンを引き出しから出して今月に接続する唯一の部分である。

5. 更新日を決める(10分)

最後に、次に読み返す日を決めてカレンダーに置く。月1回でよい。読み返す作業は、300字を読んで、手順4の1行を書き直すだけである。所要は5分を超えない。

書き直す前提で置くことが重要である。 3年後の1日は、来月には別の姿になっているかもしれない。その変化は失敗ではなく、材料が増えたことの結果である。

実際にやると、ここでつまずく

最初に書いたとき、手順3の300字のうち200字が「午前は集中できる環境で働いている」のような状態の説明で埋まった。動作を書いているつもりで、状態を書いていた。読み返しても場面は浮かばず、手順4で食い違いを探そうとしても、比べる相手が無かった。

2回目は、書き出しを固定した。「7時に起きる。」のように、時刻と動詞だけの短文から始める。 短文で始めると、次の文も動作で続きやすい。状態の説明が混ざったときは、その文の主語を「自分は」に置き換えてみて、動詞が出てこなければ削る、という判定をした。300字のうち、この方法で残ったのは初稿の4割ほどだった。

もうひとつのつまずきは、手順2で登場人物に「将来の同僚」のような未確定の人を入れてしまったことである。未確定の人を入れると、その人との場面は想像で埋めるしかなく、結果として1日全体が空想寄りになった。今いる人だけで書き、いない場合は「1人で」と書くほうが、手順4で使える文になった。

この手順の続けにくい点と、LifeOSがそこをどう扱うか

この手順のいちばん続けにくい点は、手順5の月1回の読み返しである。70分かけて書いた初回は記憶に残るが、翌月の5分は、カレンダーに置いてあっても飛ばされる。飛ばした月が2回続くと、300字はまた引き出しに戻る。

理由は分量ではなく、接続が切れることにある。手順4の1行は「今月ひとつだけ変えること」なので、月の途中で実際にどうだったかの記録が無いと、翌月に書き直す材料が無い。材料が無い読み返しは、300字を眺めて終わり、5分でも重く感じる。 逆に、その月の判断がいくつか手元にあれば、食い違いはすぐ見つかる。

LifeOSは、この月次の材料を週1回の対話の側で溜めている。毎週の振り返りで答えた内容が日付付きで残るので、月1回の読み返しのときに「今月の判断」が最初から並んでいる状態になる。また、繰り返し出てきた判断の傾向が候補として提示されるため、300字のどこと食い違っているかを探す作業が短くなる。ただし、提示されるのは候補であり、書き直すかどうかを決めるのは本人である。紙とカレンダーだけでも同じ手順は回るので、材料の置き場所を1つに寄せたい場合の選択肢としてLifeOSを3分だけ試してみてほしい。

3年後の1日を書く前に、自分がどういう判断をしがちかを言葉にしておきたい場合は、自分の価値観の見つけ方。1人でできる手順の全体像が前の工程にあたる。

FAQ

ライフビジョンとライフプランは違うものですか?

この記事では別のものとして扱っている。ライフプランは、住宅、教育、退職といった出来事と資金を時系列に並べた計画で、金額と時期が中心になる。ここで書くライフビジョンは、金額も時期も入れず、ある1日の過ごし方だけを書いた記述である。両方あってもよいが、混ぜると300字が数字で埋まり、場面が浮かばなくなる。数字を扱いたい場合は、別の紙に分けて書くことをすすめる。

3年後が想像できないときはどうしますか?

期間を1年に縮めて、同じ手順で書いてよい。1年なら今の生活の延長で書けるため、手順3の300字は埋まりやすい。ただし、今の予定の書き写しになりやすいので、手順4で食い違いが1つも見つからなかった場合は、期間を2年に延ばして書き直すとよい。逆に、3年後を書こうとして手が止まる状態が続く場合、原因は想像力ではなく材料不足であることが多いので、過去を並べる人生の棚卸しを先に済ませるほうが早い。

書いたビジョンが1年で変わってしまったら、失敗ですか?

この記事では、変化を失敗として扱っていない。3年後の1日は、書いた時点で手元にあった材料から描いた暫定の記述であり、材料が増えれば描く内容も変わる。手順5で更新日を決めているのは、変わることを前提にしているためである。判断の材料としては、変わった事実そのものより、どの部分が変わったかのほうが使える。前の版を消さずに残しておくと、次に書き直すときに比べられる。