ここでいうモットー(座右の銘)とは、立派な言葉を1つ選んで掲げることではなく、迷う場面が来たときに自分が次に取る動作を指定した、10語前後の1文のことである。 指定が入っていない文は、読んでも何をするかが変わらないので、掲げても場面で出てこない。
この記事では、すでに気に入っている言葉を先に5つ集め、3つの条件で検品し、落ちた言葉から自分の1文を作る手順を書く。所要は55分、出力物は1文と、それを使う場面1つである。紙1枚でできる。
なお、二者択一で何を優先するかを「AよりB」の比較文にする工程は「自分の軸」とは何かにある。この記事は比較を扱わない。場面が来たときに取る動作を1つだけ指定する、という一点に限定する。
聞かれたときだけ答えて、それ以外は一度も思い出さない
面接や自己紹介の欄に「座右の銘」がある。急いで検索して、良さそうな言葉を1つ選んで書く。四字熟語でも、有名な人の言葉でもよい。
書いた瞬間は、自分に合っている感じがする。ところが、その後に使う場面が来ない。半年後に同じ欄が出てきたとき、前回何と書いたかを覚えていない。別の言葉を選び直しても、同じことが起きるということがある。
自分の言葉で決めたい、と思って考え始めると、今度は何も出てこない。頭に浮かぶのは、どこかで読んだ言い回しばかりになる。
出てこないのは、言葉を先に探しているから
名言は、誰にでも当てはまるように作られている。誰にでも当てはまる文は、特定の場面を指さない。だから、場面のほうから引き当てられない。
もう1つ、名言の多くは状態を述べた文である。「継続は力なり」は、継続すると力になる、という状態の説明であって、今日の自分に何をせよとは言っていない。状態の説明は反対しにくいぶん、反対の行動を選ぶ余地がない。選ぶ余地のない文は、判断の場面で役に立ちにくい。
そこで順番を逆にする。言葉を探すのをやめて、すでに気に入っている言葉を検品の材料として使う。落ちた言葉の落ち方に、自分の場面が写っていることがある。
3つの条件
検品に使う条件は3つだけである。手順の中で使うので、先に紙の隅に書いておく。
- 自分の動作を指す動詞が入っている(「〜する」「〜を先に書く」など。「〜である」「〜が大事」は動作ではない)
- 反対の行動も現実的に選べる(誰も反対しない文は条件にならない。「誠実であれ」の反対を選ぶ人はいないので、判断が分かれない)
- 10語以内で、読み上げられる(場面で思い出す必要があるため、長い文は落ちる)
手順(55分)
1. 気に入っている言葉を5つ書き出す(5分)
借り物のままでよい。名言、歌詞の一節、上司や家族に言われた言葉、本の見出し。出典は問わない。この段階で選ばない。5つ埋まらなければ3つでよい。
2. 各語に「その言葉があれば違う判断をした場面」を1つ書く(15分)
直近1か月から探す。その言葉を思い出していたら、実際に別の行動を取っていたはずの場面を、1語につき1つ書く。日付か曜日が分かる場面にする。
「急がば回れ」 → 火曜、確認せずに送って翌日に訂正した
「和を以て貴しと為す」 → (場面が書けない)
場面が書けない語は、ここで落とす。ここで5つのうち2〜4つが落ちるのが普通である。落ちた語が悪いのではなく、自分の1か月と接点がなかった、というだけである。
3. 残った語を、3つの条件で検品する(10分)
残った語に、条件1・2・3を上から当てて○×を付ける。1つでも×が付いたら落とす。
「急がば回れ」
条件1(自分の動作の動詞)× / 条件2(反対も選べる)○ / 条件3(10語以内)○
多くの場合、ここで全部落ちる。全部落ちてよい。 手順4で使うのは、残った語ではなく、手順2で書いた場面のほうである。
4. 場面の側から、自分の1文を書く(20分)
手順2で書いた場面のうち、同じ種類の場面が2回以上あったものを1つ選ぶ。1回きりの場面は使わない。
選んだ場面について、次の3つを順に書き、最後に1文へつなぐ。
① その場面で自分が実際に取った行動 → 確認せずに送った
② 次に同じ場面が来たら取る行動 → 送る前に、宛先と数字だけ声に出して読む
③ 1文にする → 送る前に、宛先と数字を声に出す
②は、できるだけ小さい動作にする。「慎重になる」は動作ではない。声に出す、1行書く、5分置く、といった外から見える動作まで下げる。 下げるほど、場面で実行できる確率が上がる。
書けたら、3つの条件をもう一度当てる。×が付いたら②に戻って書き直す。
5. 使う場面を1つだけ指定して書き添える(5分)
1文の下に、その文を使う場面を1つだけ書く。「送信ボタンを押す直前」「会議で発言を求められたとき」のように、時点が分かる形にする。
場面を複数書かない。2つ以上書くと、どちらでも思い出せなくなることがある。1つで運用してみて、足りなければ翌月に足す。
6. 1か月後に、使ったかどうかを○×で見る(1分)
カレンダーに1か月後の印を入れておく。その日に、この1か月で実際にその文を思い出した回数を数字で書く。0回なら、②の動作が大きすぎるか、手順5の場面指定がずれている。文そのものを変える前に、この2つを疑う。
実際にやると、ここでつまずく
手順1で、「ふさわしい」言葉を探しに行ってしまう。 探すほど、自分の場面から遠い言葉が集まる。手元にすでにある5つで始める。この手順は、言葉の良し悪しを比べるものではない。
手順2で、場面を「いつも」「よく」と書いてしまう。 「いつも急いで失敗する」は場面ではない。日付か曜日が特定できる1件まで下ろす。下ろせない場合、その語は落ちる、ということでよい。
手順4の②で、気の持ち方を書いてしまう。 「落ち着く」「丁寧にやる」は外から見えない。実行したかどうかを自分で判定できない動作は、1か月後に○×が付けられない。
1文が立派に見えないので、書き直したくなる。 立派さは条件に入っていない。「送る前に、宛先と数字を声に出す」は座右の銘らしくないが、場面で出てくるならこの手順の目的は満たしている。人に見せる欄に書く言葉と、自分が使う文は、分けて持ってよい。
この手順の限界
1か月ぶんの場面しか材料にしていないので、年に数回しか来ない大きな判断は、この手順では拾えない。拾えるのは、繰り返し来る小さい場面である。大きい判断のほうは、比較文の形で持つほうが向いていることがある。
もう1つ、1文を決めても、それが自分に合っているかどうかは1か月では分からない。使った回数は数えられるが、使った結果が良かったかどうかは、もっと長い期間の材料がいる。この手順は、良い文を選ぶ手順ではなく、使われる文の形に整える手順である。
そして、1か月後の○×を1人で続けるのは、思っているより抜ける。カレンダーに印を入れても、その日に前回何を書いたかを思い出せないと、数字が出せない。前提の持ち越しは、1人でやるときに一番落ちやすい部分である。
LifeOSはこの部分をどう扱うか
LifeOSは、週1回の振り返りをAIとの対話で進めるサービスである。モットーを登録する機能はないが、週ごとの内容が1か所に積み上がり、次回の対話がその前提から始まる点が、いまの「前提の持ち越しが落ちる」という弱いところと重なる。前回書いた1文を自分で思い出して入力し直さなくてよいので、使った回数の側に時間を使えることがある。
AIが返すのは断定ではなく仮説で、採るか採らないかは本人が決める。本人が確認したものだけが、次回以降の前提として残る。ふさわしい言葉を提案してくれるサービスではないし、診断や適性の判定もしない。決めた1文が実際に使われているかを、月をまたいで見たい場合に使い道があることがある。登録なしで3分ほど試せる。
1文の背後にある判断基準そのものを言葉にしていく手順は自分の価値観の見つけ方に、決めた言葉が後から変わったときの扱い方は価値観は変わるにまとめてある。
FAQ
有名な言葉をそのまま座右の銘にしてはいけませんか?
問題ない。手順2で場面が書けて、3つの条件を通るなら、借り物のままで使える。この手順が向くのは、選んだ言葉を半年以上一度も思い出さなかった経験がある場合である。
モットーは1つに絞るべきですか?
この手順では1つで作る。2つ以上持つこと自体は問題ないが、場面の指定が1つずつ要るので、同時に運用すると1か月後の○×が付けにくくなる。1つで1か月回してから、足すかどうかを決めるとよい。
書いた文が半年で合わなくなってきました。作り直すべきですか?
合わなくなること自体は珍しくない。手順6の数字(思い出した回数)が下がっているなら、場面のほうが変わった可能性がある。文を捨てる前に、手順5の場面指定を書き直して1か月試すと切り分けられる。なお、この記事もLifeOSも、心身の状態を診断・治療・カウンセリングするものではない。言葉が決まらないことで気持ちの落ち込みが続く場合は、作業を進めるより先に、話せる相手や医療機関・公的な相談窓口を頼るほうが適していることがある。
