AIとの壁打ちとは、自分がすでに持っている案を1文で相手に投げ、返ってきた反応を使って案そのものを書き直していく作業である。 答えを持たない状態で相談することとは、入口の条件が違う。壁打ちは、粗くてもよいので案が1つあるところから始まる。この記事では、案を1文で持ち込み、3ラウンドで1文を書き直して終える手順を扱う。使うのは無料で使える対話型AI1つと、1文を3回書き残せる場所だけである。
話した直後は進んだ気がして、翌朝には元の1文に戻っている
「副業で何か始めたい」とAIに打ち込む。返ってきたのは、選択肢が5つと、それぞれの長所短所が整った表になっている。読んでいる間は視界が開けた感じがして、いくつかブックマークもする。
翌朝に自分の手元を見ると、案として書けるものは前の日と同じ一文しかない。増えたのは読んだ情報の量で、案の解像度ではない。この往復を何度かやったあと、「壁打ちは自分には合わないのかもしれない」と思う人もいる。
進まないのは、案を壊す作業になっていないから
壁打ちという言葉は、壁に球を当てて返ってきた球をもう一度打つ動作から来ている。つまり打つ球を持っているのは常に自分の側で、壁の役目は返すことだけである。
AIに選択肢を出させている間、球を出しているのはAIのほうになっている。読む側は「どれがよさそうか」を選ぶ立場に回るため、案は増えるのに、自分が持っていた最初の1文は一度も打たれない。翌朝に元の1文が残っているのは、集中力の問題ではなく、その時間に自分の案が一度も壊されていないという形式上の結果である。
壁打ちを機能させるには、球を出す側を自分に固定し、AIには「その案を実行したとき、どこで詰まるか」を質問の形にしてもらう役だけを渡す。答えまで書かせない。答えが返ってきた瞬間、球はまたAIの側に移る。
AI壁打ちと、AIに質問役をさせる対話の違い
似た形式に、テーマだけを持ち込んでAIに質問を返させる進め方がある。違いは入口の条件と、終わったときに手元に残るものである。
| AI壁打ち(この記事) | AIに質問だけをさせる対話 | |
|---|---|---|
| 入口 | 案が1つある(「〜する」で終わる1文) | 案はない。テーマだけがある |
| AIの役 | 詰まる場所を質問に変換する | 質問を1つずつ出す |
| 自分の作業 | 案の1文を書き直す | 質問に答える |
| 手元に残るもの | 1文の3世代分の差分 | 決めた行動1つと数値 |
案を持たずに壁打ちを始めようとすると、最初の10分が案づくりに消えて時間が足りなくなる。案がまだない段階の進め方はAIコーチングとは何か。人のコーチとの違いと限界で扱っている。
手順: 1案・3ラウンド・1文更新(30分)
工程0. 案を「〜する」で終わる1文にする(3分)
AIを開く前に、紙かメモに案を1文で書く。条件は2つ。動詞で終わることと、期限か回数のどちらかが入っていることである。
- 悪い例: 「副業について考える」(動詞が「考える」で、実行の形になっていない)
- 良い例: 「今月中に、平日夜2時間でできる副業の案を1つ選んで申し込む」
この1文が、3ラウンドで書き直されていく対象になる。上手に書こうとしなくてよい。粗いほうが壊す余地がある。
工程1. 役を固定する文を貼る(2分)
セッションの最初に、次の趣旨をそのまま貼る。
これから私の案を1文で送ります。あなたの役は、この案を実行したときに最初に詰まる場所を「質問」の形で3つ返すことだけです。条件は4つ。(1) 質問だけを返し、答え・助言・改善案は書かない (2) 3つとも別々の場所について聞く (3) 「なぜ」で始めない (4) 私が答えるまで次を出さない。
条件(3)を入れているのは、「なぜそれをやりたいのですか」のような動機を聞く質問が混ざると、案の実行ではなく気持ちの説明に時間が流れるためである。壁打ちで壊したいのは案の中身であって、動機ではない。
工程2. 自分が答えられない質問を1つ選ぶ(3分)
返ってきた3つの質問のうち、その場で答えが出ないものを1つだけ選ぶ。すぐ答えられる質問は、すでに考え済みの場所なので選ばない。ここで選び間違えると、ラウンドが確認作業になって終わる。
工程3. 選んだ1問について3行だけ書く(7分)
選んだ質問に、3行以内で答えを書く。調べないと分からない部分は「調べる: 〇〇」と書いて先へ進む。ここで検索を始めると30分では終わらない。
工程4. 案の1文を書き直す(3分)
工程3で書いた3行を踏まえて、工程0の1文を書き直す。制約は1つ、変えてよいのは語1つか、数値1つだけである。全部書き直すと、どの質問が効いたのか分からなくなる。
書き直した1文を、前の1文の下に並べて残す。消さない。
工程5. 工程1〜4をあと2回繰り返す(12分)
同じセッションの中で、書き直した最新の1文を送り、また3つの質問を出させる。合計3ラウンド、1文が3世代並んだところで終わる。
工程6. 最後に1行だけ書く(1分)
3世代の1文を上から順に読み、「最初の案から捨てたもの」を1行で書く。たとえば「『何か』を捨てて、対象を1つに固定した」。この1行が、次に同じテーマを開いたときの入口になる。
実際にやると、ここでつまずく
いちばん多いのは、質問と一緒に答えが返ってきて、読んだ瞬間にそのラウンドが死ぬという失敗である。条件(1)を書いていても、質問のあとに「たとえば〜という方法があります」と続くことがある。読んでしまうと、工程3で書く3行がその内容の要約になり、自分の言葉が1つも増えない。
対処は2つある。1つは、質問が届いたら続きを読む前に工程2の選択を先に済ませること。もう1つは、混ざったときに「答えは不要です。質問3つだけをもう一度」と1行返すことである。返し直しの手間は10秒で済む。
もう1つのつまずきは、3ラウンド目で1文がほとんど変わらなくなることである。これは詰まったのではなく、手元の材料で変えられる語がなくなったサインであることが多い。ここで無理に4ラウンド目に入ると、案が細かくなるだけで実行しやすさは上がらない。止めて、工程3で「調べる: 〇〇」と書いた項目に移るほうが早い。
この手順の、続けにくい点
30分で1文が3世代進むので、終わった直後の手応えは大きい。難しいのはその次で、3世代の1文と最後の1行が、どこにも積み上がらない。汎用の対話型AIは会話が変わると前回の内容を引き継がないことがあり、次に同じテーマを開くときは、最新の1文と捨てたものの1行を自分で探して貼り直すことになる。
この貼り直しを1回省くと、次の回は最初の粗い1文からやり直しになる。壁打ちが「毎回楽しいが積み上がらない」状態になるのは、たいていこの1点が原因である。週1回の枠として固定する場合の組み立て方は週1回の振り返りのやり方。準備・質問・所要時間の完全ガイド、AIを振り返りに使う全体像はAIジャーナリングとは。できること・できないこと・始め方で扱っている。
LifeOSがこの部分をどう扱うか
LifeOS は、週1回・5〜10分の振り返りに特化した日本語のサービスである。決まった項目に短く入力するとAIが整理を仮説として返し、記録として残すかどうかは本人が決める。確認済みの記録はつながって残るため、上の手順で毎回発生する「前回の1文と捨てたものを探して貼り直す」部分を持たなくてよくなる。壁打ちの相手を代行するものではなく、本人が確認した1文だけが積み上がる設計である。
なお、LifeOSは診断・治療・カウンセリングを提供するサービスではない。
よくある質問
案がまだない状態でも壁打ちはできますか?
上の手順は、粗くても案が1文ある状態を入口にしている。案が出てこない段階でこの手順に入ると、工程0で止まってしまうことがある。その場合は、テーマだけを持ち込んでAIに質問を返させる形式のほうが進みやすいこともある。あるいは、案を「今週やってみて向き不向きを確かめる小さいこと」まで下げると、工程0の1文が書けるようになる場合もある。
何ラウンド回すのがよいですか?
この手順では3ラウンドで区切っている。回数を先に決めておかないと、質問が返ってくるかぎり続けられてしまい、終わり方が分からなくなるためである。3ラウンド目で1文がほとんど変わらなければ、そこが止めどきだと考えてよい。逆に3ラウンドで足りないと感じる場合は、案が大きすぎる可能性があるので、案を分けて別のセッションにするほうが進みやすい。
AIが返してきた質問が的外れなときはどうしますか?
的外れな質問は、案の1文に条件が足りていないことの手がかりになる。たとえば予算の質問ばかり返ってくるなら、1文に金額の上限が書かれていない。捨てずに、その足りていない条件を1文に足してからもう一度送ると、3つの質問の当たり方が変わる。それでも噛み合わない場合は、そのラウンドを飛ばして次に進んで構わない。
