自分の変化に気づくとは、今の自分を観察することではなく、過去のある1点と今のある1点を横に置いて、同じ観点で書かれた文を見比べる作業である。 変化は、今だけを見ていても出てこない。比べる相手が必要で、その相手は半年前の自分が残した文である。
この記事で扱うのは、手元にある記録から2点だけを選び、同じ3つの観点で抜き出して並べ、違いを1行ずつ書く50分である。必要なのは、半年前ごろの記録が何らかの形で1つ残っていること、紙1枚とペンだけである。記録が1件も残っていない場合の代わりの手も、最後のFAQに書いた。
半年ぶんのメモを開いて、5分で閉じる
半年前に書いた日記アプリを開き、上から順に読み始める。当時の予定の話や、もう終わった心配事が続く。10件ほどスクロールしたところで、これを180日ぶん読むのかと思い、アプリを閉じる。残るのは「特に変わっていない気がする」という感想だけである。年末や誕生日に一度やってみて、同じところで止まった人もいると思う。止まった理由は記録が足りないからではなく、むしろ多すぎるほうが止まりやすい。
気づけないのは、比べる形になっていないから
全部読み返す方式には、構造的な問題が2つある。
1つは、量が読み手の集中を超えることである。180日ぶんの文章は、どんなに短く書いていても数千字になる。途中で「読む」から「眺める」に切り替わり、印象しか残らない。
もう1つは、読んでいる間、比較の基準が動き続けることである。1件目は仕事の話、2件目は体調の話、3件目は人間関係の話、というように話題が変わる。話題が変わると見る角度も変わるので、隣り合った2件を比べても差が出ない。差が出ないのは変化していないからではなく、違うものを見比べているからである。
どちらも意識の持ち方ではなく形式の問題である。だから形式のほうを変える。読む量を2件に絞り、その2件から抜き出す観点を先に3つ決めておく。 量が減り、角度が固定されれば、差は自然に文字の上に出る。
なお、変化の有無を確かめる作業と、価値観そのものを言葉にする作業は別である。後者の全体像は自分の価値観の見つけ方。1人でできる手順の全体像にある。この記事が扱うのは、すでにある記録から差分だけを取り出す工程である。
手順(50分・紙1枚と手元の記録)
1. 比べる2点を「日付」で決める(5分)
先に読むのではなく、先に日付を決める。内容を見てから選ぶと、印象の強い日を選んでしまい、当時の平均的な状態から離れる。
- 点A: 今日からさかのぼって、5〜7か月前の範囲で、記録が残っている最初の日
- 点B: 直近1週間のうち、記録が残っている最初の日
範囲に記録が1件もなければ、前後2週間まで広げる。間隔は半年ちょうどでなくてよく、4か月でも8か月でも手順は同じである。決めた2つの日付を紙の左上と右上に書く。これで比べる対象が固定される。
2. 抜き出す観点を3つに決める(5分)
紙を縦に3段に区切り、左端に次の3つを書く。これが全記事を通して唯一の固定部分である。
- 使っている時間: その日、いちばん長く時間を使ったこと
- 繰り返している気がかり: 前後の日にも出てくる、同じ心配や不満
- 決めたこと: その日に自分で決めた、または決めようとしたこと
この3つにした理由は、変化が文章に出やすいからである。気持ちや調子は日によって上下するので、2点だけ比べると差の理由が分からない。一方、時間の使い方・繰り返す気がかり・決めたことは、数か月単位でしか動かないため、2点比較に耐える。4つ目を足すと「どの差が大事か」を選ぶ作業が増えるので、3つで止める。
3. 点Aから3つを抜き出す(10分)
点Aの記録を開き、その日の前後3日ぶんだけ読む。1日だけだとその日の偶然に引きずられ、1週間だと量が戻ってしまうので、前後3日が折り合いのつく範囲である。3つの観点それぞれについて、紙の左側に1行ずつ書く。条件は2つある。
- 記録に書いてある言葉をそのまま使う。要約や言い換えをしない。当時の言葉づかいそのものが材料になる。
- 該当が見つからなければ「記載なし」と書く。空欄にしない。当時その観点を気にしていなかったという情報である。
4. 点Bから同じ3つを抜き出す(10分)
同じ作業を点Bで行い、紙の右側に書く。ここで注意する点が1つある。点Aで書いた左側を、この作業の前に読み返さないこと。 読んでから書くと、左側に合わせて右側の言葉を選んでしまい、差が小さく見える。紙を折って左側を隠してから書くと確実である。
5. 差を3行で書く(15分)
紙を開き、3段それぞれで左右を見比べて、下の余白に1行ずつ書く。書式は固定する。
〈観点〉: Aでは〈左の言葉〉、Bでは〈右の言葉〉。違いは〈何が入れ替わったか〉。
「違いは」の部分は、良くなった・悪くなったで書かない。入れ替わったものを書く。たとえば「対象が人から作業に入れ替わった」「時間帯が夜から朝に入れ替わった」「気がかりの主語が自分から他人に入れ替わった」のような形である。
1行が「違いはない」になっても、そのまま書く。3つのうち1つでも入れ替わっていれば、この作業の目的は足りている。
6. 1行だけ選んで、理由の候補を1つ書く(5分)
3行のうち、いちばん意外だった1行に印を付ける。そして、その下にその間に起きた出来事を1つだけ書く。転職、引っ越し、担当の変更、家族の状況、何でもよい。当てるための工程ではないので、候補が1つ出たら止める。確かめようとすると、全部読み返す元の作業に戻ってしまう。書いた紙は日付を入れて残す。次回この手順をやるときの点Aとして使える。
実際にやると、ここでつまずく
つまずき1: 点Aの範囲に記録がなく、探しているうちに読み返しが始まる。 記録が見つからないまま前後を探すと、目についた別の月を読み始めてしまい、そこで30分が消える。対策は、探す時間に3分の上限を付けることである。3分で見つからなければ、その半年に記録がなかったものとして扱い、FAQに書いた代わりの手に切り替える。
つまずき2: 「決めたこと」の欄が両方とも「記載なし」になる。 決めたことは日記には意外と書かれておらず、書かれているのは決めた結果の行動だけである。この場合は予定を変えた記述(行かないことにした、後回しにした、断った)を「決めたこと」として扱う。それも無ければ両方「記載なし」で進め、手順5ではその段を飛ばす。
つまずき3: 差が出たあと、良し悪しの評価に流れる。 「朝に移ったのは良いが、人と会う時間が減ったのは悪い」と書くと、そこから改善の計画に話が移り、比較が終わらない。手順5の書式を守り、評価語を使わないほうが50分で終わる。評価は次の週に何をするか決める場面まで持ち越してよい。
この手順の続けにくい点と、LifeOSがそれをどう扱うか
この手順の弱点は2つある。
1つ目は、点Aの質に結果が左右されることである。半年前の記録が「疲れた」の3文字なら、3つの観点は全部「記載なし」になる。この手順は、過去の記録の書式が今と揃っていることを暗黙に前提にしている。
2つ目は、やる日を自分で思い出す必要があることである。比較は年に2回あれば足りるが、そのぶん次回まで半年空く。半年後に「あの紙をどこに置いたか」から始めることになり、たいてい見つからない。
LifeOSは、このうち前者を記録の入口の形で扱っている。週1回の振り返りが同じ問いで繰り返されるため、半年後に開いたときに、同じ観点で書かれた文が同じ位置に並んでいる。上の手順3・4でやった「同じ観点で抜き出す」作業が、書いた時点で済んでいる状態になる。後者についても、週次の記録が時系列で残るので、半年前の記録を日付で開くところまでは短縮される。
ただし、何が入れ替わったかを言葉にするのは読む側の作業である。LifeOSはその材料の置き場所を揃えるところまでを担う。3分で1回ぶんの記録を試せるので、半年後の点Aを今日1件作っておく、という使い方もできる。
記録を残す側の形については人生の棚卸しのやり方。半日でやる版と週次でやる版と自分年表の作り方。出来事ではなく切り替わった時点だけ並べるも参考になる。後者は本記事と違い、2点ではなく10〜15点を1列に並べて間隔を見る手順である。
よくある質問
半年より短い間隔でもできますか?
1か月未満だと3つの観点(時間の使い方・繰り返す気がかり・決めたこと)がほとんど動かないため、差が出にくい。3か月以上空いていれば同じ手順がそのまま使える。1年以上空いている場合も手順は同じだが、間に出来事が多く入るため、手順6の「理由の候補」は2つ書いておくほうが後で読み返しやすい。
記録が1件も残っていない場合はどうすればよいですか?
過去を作ることはできないので、今日を点Aにして始めるのが現実的である。3つの観点について今日ぶんを1行ずつ書き、日付を入れて保存すると、3か月後の比較材料になる。過去の代わりには、カレンダーの予定、写真アプリの履歴、支出の記録が使える。これらは文章ではないので手順3の「そのままの言葉」は使えないが、「使っている時間」の観点だけは再現できる。
変化がないと分かったら、どう受け止めればよいですか?
3つの観点すべてで差が出ないことはある。この手順は変化の有無を測る道具ではなく、手元の記録に差分が書かれているかどうかを確かめる道具である。差が書かれていない理由は、変化していない場合と、記録の形式が差を残さない場合の両方があり、この手順ではどちらかを判定できない。したがって「変化がない自分」という結論は、この紙からは出てこない。なお、気分や体調の不調が続いていると感じる場合は、この手順で判断せず、医療機関などに相談してほしい。この記事は診断やカウンセリングを提供するものではない。
