30代の人生の棚卸しとは、生まれてからの全期間を書き出す作業ではなく、対象期間を直近5年に切り、その中で自分の決定で始まったこと・終わったことに実際の時間を書き込んで、配分を見る作業である。 見るのは選択肢の数ではなく、すでに時間が流れている先のほうである。
「やりたいこと」の欄が、30代になってから埋まらない
棚卸しをやってみようと思って検索する。出てくる手順は、学生時代から順に書き出し、興味のあったこと、やりたかったこと、将来の理想像を並べる形が多い。
学生時代の欄はなんとか埋まる。社会人5年目あたりまでも書ける。そこから先が薄くなる。「やりたいこと」の欄で手が止まり、20代のころに書いた答えをもう一度書いて、違和感だけが残って閉じる。30代でこうなる人もいる。
埋まらないのは、項目が20代の前提で作られているから
20代の棚卸しは、選択肢を広げるための作業として設計されていることが多い。まだ始めていないことを並べ、どれに進むかを選ぶ。だから「やりたいこと」「興味」「憧れ」の欄が大きく取られている。
30代に入ると、前提が変わっていることがある。仕事も生活もすでに何本か走っていて、時間のほとんどがそこに入っている。この状態で選択肢を広げる形式のシートを開くと、広げる欄は空のままで、すでに走っている線のほうはどこにも書く場所がない。埋まらないのは考えが足りないからではなく、書く欄が無いからという場合がある。
だから先にやるのは、欄を埋める努力ではなく、期間を切ることである。 直近5年に切ると、走っている線が全部その中に入る。棚卸しの全体像は人生の棚卸しのやり方に、シートの項目そのものを減らす手順は人生の棚卸しシートを自作するにまとめてある。ここで扱うのは、期間の切り方と、そこへ入れる時間の書き方だけである。
手順: 直近5年を、時間の配分として並べる(90分・紙1枚)
1. 縦に5行、直近5年ぶんの年を書く(5分)
今年から順に、5年ぶんの年を縦に書く。30代なら、この5年に転職・異動・結婚・出産・引っ越し・独立・資格取得のうちいくつかが入っていることが多い。入っていなくてもよい。
10年前・20年前へ伸ばさない。 伸ばすと、行の大半が学生時代の話になり、いま時間が入っている先の話にたどり着く前に疲れる。
2. 各年に「自分で始めたこと」を1件だけ書く(20分)
1年につき1件、自分の決定で始まったことを書く。仕事でも私生活でもよい。会社都合の異動や、断れなかった依頼は、ここでは書かない(次の手順で扱う)。
2022 / 週末に英語の勉強を始めた
2023 / 転職した
2024 / 部内の勉強会を立ち上げた
2025 / 家を借り替えた
2026 / (まだ無い)
「まだ無い」の年があってよい。空欄のまま残す。埋めるために小さい話を探さない。
3. 各年に「自分の決定で終えたこと」も1件書く(15分)
同じ5行に、その年にやめたこと・手放したことを1件書く。自然に消えたものではなく、やめると決めたものに限る。
2023 / 前職の業務、資格の勉強をやめた
2024 / 週末の英語をやめた
ここも空欄可である。終えた記録が1件も無い場合は、その事実を書いておく。5年で終えたものが0件なら、時間は足され続けているということになり、この後の配分の話に直結する。
4. 続いているものに印を付け、実時間を書く(25分)
手順2で書いた「始めたこと」のうち、今週もやっているものに○を付ける。○の付いたものには、直近1か月に実際に使った時間を書く。推定でよいが、週あたりではなく月あたりの合計で書く。
2024 / 部内の勉強会 ○ / 直近1か月で4時間(準備3時間・当日1時間)
2022 / 英語 ×(2024にやめた)
続いているものが1〜2件しかなくても、それが普通の結果である。件数の少なさを問題として扱わない。 見るのは件数ではなく、○の付いたものに入っている時間の合計である。
5. 仕事の実時間を1行足して、比率を出す(15分)
上の表とは別に、直近1か月の仕事の実時間を1行書く(残業と持ち帰りを含む概算でよい)。○を付けたものの合計時間と並べる。
仕事: 約180時間 / 自分で始めて続いているもの: 約4時間
ここで良し悪しを判定しない。比率を目で見るところまでが手順である。 30代でこの比率になるのは珍しくないし、この数字を変えるべきかどうかはこの表では決まらない。
6. 「戻す先」を1つだけ書いて終える(10分)
最後に、来月に時間を戻すとしたらどこかを1つだけ書く。候補は、手順3で終えたもの、手順4で○が付いたもの、まだ書いていないもののいずれでもよい。
戻す先: 勉強会の準備を、月4時間から6時間へ
1つに限る。2つ以上書くと、どちらも動かないまま来月になりやすい。書いた行に日付を入れて保存し、この回は終える。
実際にやると、ここでつまずく
手順2で、「自分で始めたこと」が5年で1件しかない。 転職や異動が続いた期間はこうなりやすい。件数を増やそうとして会社都合の話を入れると、後の配分が読めなくなるので、1件のまま進める。1件しかないという結果自体が、この5年の配分を示している。
手順4で、実時間が推定できない。 過去1か月のカレンダーを開いて、その予定に紐づく時間だけ拾うと早い。カレンダーに入っていない作業は、1回あたりの時間×回数で概算する。ここでの精度は、10時間単位で合っていれば足りる。
手順5の比率を見て、気分が落ちる。 仕事の時間が圧倒的なのは、その期間の選択がそうなっていたという事実であって、失敗の記録ではない。落ち込む形になった場合は、手順6を書かずにいったん閉じてよい。数日おいてから戻ると、同じ表でも読み方が変わることがある。
5年で区切ると、大事なことが範囲外になる。 5年より前の出来事が今の生活を決めている場合、表には出てこない。その場合は、この表とは別に1行だけ「範囲外だが効いていること」として書き添えておく。期間を10年に伸ばすより、書き添えるほうが表は保たれる。
この手順の続けにくい点と、LifeOSがそこをどう扱うか
この表は1回作れば、次回は差分だけで済む。続けにくいのは手順4の実時間である。1回目は1か月ぶんのカレンダーを遡って概算できるが、半年後にもう一度やるときには、その半年ぶんをまた遡ることになる。この遡りが重いので、2回目をやらないまま1年が過ぎる。
もうひとつは手順6の「戻す先」のほうである。書いた1行は紙の上に残るが、翌月にそれを見る機会がどこにも無い。見る機会が無いと、次に棚卸しをしたときに同じ行をもう一度書くことになる。
LifeOSは、対話を通じて自分の価値観を言葉にし、週1回の振り返りで更新していく日本語のサービスである。上の手順との関係でいうと、その週に何に時間が入ったかが毎週たまっていき、決めた1行を次の週にまた見る形になっているため、半年後に遡り直す工程が軽くなる。一方で、時間の配分を変えるべきかどうかをサービスが判定するわけではないし、これは進路や生き方の相談に答えるものでもない。表を作る作業自体は紙1枚でできるので、まず1回試して、2回目に材料を探す手間が惜しくなったときに置き場所を考えれば十分である。
価値観を言葉にする手順の全体像は自分の価値観の見つけ方にまとめてある。
よくある質問
5年ではなく、社会人になってから全部を書いてはいけませんか
書いてもよいが、行数が増えるぶん手順4の実時間まで到達しにくくなる。この手順の目的は経歴を並べることではなく、いま時間が入っている先を見ることなので、まず5年で1回終えてから、必要なら期間を足すほうが完走しやすい。全期間版の手順は人生の棚卸しのやり方にある。
転職を考えていない場合でも意味はありますか
この表は転職の準備として作るものではない。手順5で出るのは職務経歴ではなく時間の配分なので、転職の予定の有無とは独立して読める。職務経歴として並べたい場合は、書く対象も粒度も別になる。
30代のうちにやっておくべき項目のリストはありますか
年代ごとの必須項目というものはない。この手順が年代を名前に入れているのは、20代向けの項目を外すという1点のためであって、30代用の項目を足すためではない。足す項目を探すより、手順1で期間を切るところだけ守れば形になる。
