過去の経験の書き出しとは、印象に残った出来事を並べる作業ではなく、実際に繰り返した行動を、評価を付けずに動作の粒度で書き出す作業である。 先に決めるのは、何から書き始めるかという入口である。
「成功体験を3つ」で手が止まる
自己分析の本でも、テンプレートでも、たいてい最初の欄は成功体験である。頑張ったこと、成果が出たこと、人に褒められたこと。それを3つ書けと言われる。
書こうとすると、1つ目が出ない。出たとしても「文化祭の実行委員」「前職での改善提案」のような、以前どこかで書いた答えがそのまま出てくる。書き終えても、自分について新しく分かったことは何もない。ここで止まって、書き出しそのものをやめてしまう人もいる。
成功体験が入口だと、要約された物語しか出てこない
成功体験という言葉には、結果が出たものという条件がすでに入っている。この条件で過去を探すと、頭の中では次の順に処理が起きる。
- 結果が出た出来事を探す
- その出来事を、他人に説明した形で思い出す
- 説明した形のまま書く
問題は2である。結果が出た出来事は、面接や雑談で何度か人に話していることが多い。話すたびに短く整えられ、余計な部分が落ちていく。つまり、いちばん手元に残っていない、要約済みの版が最初に出てくる。 書き出しの目的が「自分が何をしていたかを見る」ことなら、要約された版はいちばん材料が少ない。
もうひとつは、成功体験が数として少ないことである。3つ書けば尽きる。尽きたところで「自分には経験がない」という結論になりやすいが、実際には結果が出なかった行動のほうが圧倒的に多く、そちらは丸ごと未着手のまま残っている。
だから入口を変える。結果ではなく、繰り返した行動から書く。 出来事を時点として並べる手順は自分年表の作り方に、人生全体を対象にした棚卸しの手順は人生の棚卸しのやり方にある。ここで扱うのは、1件ずつをどう書くかという書き方の側だけである。
手順: 繰り返した行動から、評価を付けずに書き出す(60分・紙1枚)
1. 紙の上に「評価を書かない」と書く(1分)
最初に、紙の上部に「良い・悪いを書かない」と書いておく。これは形式的に見えるが、手が止まったときに戻る場所になる。書き出しが止まるときの多くは、内容が出ないのではなく、書いてよいかどうかを判断している時間である。
2. 直近5年で、月に1回以上やっていたことを10件書く(20分)
仕事でも私生活でもよい。条件は「月1回以上」だけである。
- 会議の議事録を書いていた
- 後輩の質問に答えていた
- 週末に長い距離を歩いていた
- 家計簿を月末につけていた
成果や役職ではなく、動作で書く。 「プロジェクトを推進した」ではなく「進捗を聞いて回って表を更新していた」と書く。動作で書けないものは、実際にはやっていない可能性があるので、いったん飛ばす。
10件に届かなければ、条件を「年に数回」まで緩めてよい。緩めるのは頻度の条件だけで、評価の条件は足さない。
3. 各件を3行に揃える(20分)
10件それぞれについて、次の3行を書く。
- どんな場面で(誰といた/どこにいた)
- 自分は何をしていたか(動作。主語は自分)
- そのあと何が起きたか(事実だけ。うまくいった/失敗したは書かない)
3行目に「うまくいった」と書きたくなったら、代わりにその根拠になった出来事を書く。「相談されることが増えた」「同じ質問が来なくなった」のような形である。
4. 途中でやめたことを3件足す(10分)
続かなかったこと、途中で手放したことを3件、同じ3行の形で足す。
これは反省のために書くのではない。やめた行動にも、何をやっていたかという動作は残っているので、材料としては手順2の10件と同じ価値がある。やめた理由はここでは書かない。理由を書くと評価が混ざり、行が長くなる。
5. 2行目(動作)だけを縦に読む(9分)
13件ぶんの「自分は何をしていたか」の行だけを、上から順に読む。場面も結果も見ない。
同じ動詞が何度か出てくることがある。「聞いて回る」「整理する」「書き直す」「人に渡す」など。出てきた動詞に印を付けるところまでで、この手順は終わりである。 そこから強みや適性を決める作業には、ここでは進まない。印が付いた動詞が、あとで価値観や方向を考えるときの材料になる。
実際にやると、ここでつまずく
手順2で、仕事の話ばかりになる。 条件が「月1回以上」なので、業務が真っ先に出てくるのは自然である。10件のうち3件は仕事以外から、と先に枠を決めておくと偏りにくい。
3行目に感想が入る。 「大変だった」「達成感があった」は感想であって、そのあと何が起きたかではない。感想が出てきたときは、そう感じた場面のほうを3行目に書く。
昔のことを思い出そうとして止まる。 この手順は直近5年から始める形にしてある。学生時代まで遡るのは、13件が埋まったあとで足りないと感じた場合だけでよい。
印が付いた動詞が意外で、受け入れにくい。 手順5で出るのは頻度の話であって、優れているかどうかの話ではない。動詞が多く出たからといって、それが向いていることを意味するわけではない。 多かった、という事実だけを持っておけば足りる。
この手順の続けにくい点と、LifeOSがそこをどう扱うか
1回書き出すと13件そろうが、次に開くのは早くて半年後になる。そのときには直近5年の範囲がずれていて、また同じだけ遡ることになる。遡りが重いので2回目をやらない、という止まり方をしやすい。
もうひとつは手順2の材料である。「月1回以上やっていたこと」は、日々やっているときには意識に上らないので、あとから思い出すのがいちばん難しい種類の記憶である。
LifeOSは、対話を通じて自分の価値観を言葉にし、週1回の振り返りで更新していく日本語のサービスである。上の手順との関係でいうと、その週に何をしていたかが毎週たまっていくため、繰り返していた行動をあとから5年ぶん遡って探す工程が軽くなる。一方で、出てきた動詞から適性や進路を判定するものではないし、診断やカウンセリングを提供するものでもない。書き出しそのものは紙1枚でできるので、まず1回やってみて、2回目の材料探しが重いと感じたときに置き場所を考えれば十分である。
書き出した材料を価値観の言葉にしていく手順は自分の価値観の見つけ方にまとめてある。
よくある質問
就職や転職の自己分析として、この書き出しをそのまま使えますか
そのままでは使いにくい。この手順は評価を付けずに動作を並べる形なので、応募書類に必要な「成果と役割」の形にはなっていない。材料としては使えるが、応募用に書き直す工程は別に必要になる。
成功体験は結局書かなくてよいのですか
書いてよい。順番の話であって、禁止ではない。成功体験から入ると要約済みの版が先に出るため入口を変えているだけなので、手順5まで終えたあとに足すぶんには材料が混ざらない。
手順5で同じ動詞が1つも出てきませんでした
出ないこともある。13件の粒度がばらついていると重なりが見えにくいので、2行目を「動詞+目的語」の形に揃え直してからもう一度読むと重なることがある。それでも出なければ、件数を足して再度読めばよく、出ないこと自体を結論として扱う必要はない。
