AIを使った価値観の言語化とは、AIに候補語を並べさせ、その大半を「これは違う」と却下しながら、却下の理由のほうを自分の言葉として回収する作業である。 残った語が答えになるのではない。却下文に繰り返し現れた語が答えになる。この記事で扱うのは、候補語を20語出させてから、却下文を20本書き、そこから3語を取り出すまでの45分だけである。必要なのは対話型AIが1つと、20行書ける紙かテキストファイルが1枚である。
強みの候補語を同じようにAIへ出させ、先に決めた関門で採否を決める手順はAIに強みの候補を出させて、自分で採否を決める手順で扱っている。あちらは通す作業、こちらは落とす作業で、手元に残るものが違う。
「誠実さ」「成長」と返ってきて、否定はできないが自分の言葉にもならない
価値観を言葉にしておきたくてAIを開く。直近の出来事をいくつか書いて「私の価値観を言語化してください」と打つ。返ってきたのは、誠実さ、成長、自由、つながり、挑戦といった語と、それぞれに2行の説明だった。
読んでいて、どれも否定はできない。誠実さを大事にしていないとは言えないし、成長したくないわけでもない。だから全部にうなずいて画面を閉じる。翌週、同じ質問をもう一度AIに投げて、ほぼ同じ5語が返ってくる。2回やっても、自分の口から出せる言葉は増えていない。
決まらないのは、候補語が「反論できない形」で出てくるから
AIが出す価値観の候補語は、辞書的な意味が広い。誠実さも成長も、どんな行動でも当てはめられる。反論できない語は、採用しても何も絞り込めない。だから読んだ瞬間には納得でき、1週間後には使えない。
形式の問題として整理すると、この作業で足りていないのは候補ではなく、却下である。20語のうち17語を「これは違う」と落とすとき、人は必ず理由を口にする。「誠実さは違う。約束を破ったときに罪悪感より先に、段取りが崩れたことに苛立っていたから」——この却下文のほうに、候補語より具体的な語(段取り)が入っている。
つまり価値観の言語化は、正しい語を選ぶ作業ではなく、外れの語を大量に用意して、外れた理由を書き出す作業として設計できる。AIは、その外れの語を安く大量に作れる点で向いている。
手順(45分・紙1枚)
1. 材料として、先週の具体的な行動を5行渡す(10分)
出来事ではなく行動を書く。「会議があった」ではなく「会議で、資料が間に合わないと分かった時点で先に共有した」のように、自分が何をしたかまで書く。感想は書かない。
5行が出ないときは、3行でよい。材料が少ないほど候補語は抽象に寄るが、この手順では候補語の質は問題にならない。
2. AIに候補語だけを20語出させる(5分)
依頼文は次の3条件を入れる。
- 説明を付けず、語だけを20個、番号付きで出すこと
- 一般的な価値観リストにある語と、そうでない語を混ぜること
- こちらが答えるまで、解釈や助言を書かないこと
説明が付くと、読むだけで20分が溶ける。語だけを指定する。
3. 20語を紙に写し、1語ずつ却下文を書く(20分)
ここが本体である。1語につき1行、次の形で書く。
「〇〇」は違う。なぜなら(先週の具体的な行動)のとき、実際には〜だったから。
1語1分で進める。3語までは採用してよいが、まず全部を却下しにいく。却下しようとして手が止まる語が、残す候補になる。
4. 却下文に2回以上出てきた語に丸をつける(5分)
20本の却下文を読み返し、候補語ではなく自分が書いた側の語を数える。段取り、締め切り、先に言う、巻き込まない、などの語が複数回出てくる。2回以上のものに丸をつける。
5. 丸のついた語を3つに絞り、反例を1つ書く(5分)
丸が4つ以上ついたら、直近1か月で実際に手が動いた回数が多い順に3つへ絞る。そのうえで、3語それぞれに「ただし、この語に反する行動をした場面」を1つ書き足す。反例が1つも出ない語は、まだ使えていない語なので保留に回す。
実際にやると、ここでつまずく
却下文が「ピンとこないから」で終わる。 これは理由ではないので、手順4で数える語が出てこない。ピンとこないと書いた行は、その場で「いつの、どの場面と合わないのか」を1つ足す。場面が出ないなら、その語は却下ではなく保留に置いて先へ進む。
20語のうち、最初の5語で気に入った語が見つかって手が止まる。 気に入った語が早く出るほど、残り15語の却下文を書く気が失せる。気に入った語は手順3の対象から外し、最後に戻す。20本の却下文を書き終える前に採用を決めると、手順4で数える材料が足りなくなる。
AIが途中で解釈を書き始める。 却下文をそのまま画面へ打ち込むと、AIが「それは責任感ですね」と別の語を提案してくる。却下文は紙かメモ帳に書き、AIへは戻さない。戻すと、また反論できない語が増える。
この手順の限界と、LifeOSがそこをどう扱うか
この手順で出るのは、先週の行動から見える範囲の語である。1回分の材料では、たまたまその週に集中していた作業が価値観の形で出てくることがある。手順5の反例はその補正だが、1回では足りない。
補正の方法は1つで、間隔をあけて同じ作業を繰り返し、丸のついた語が入れ替わるかを見ることである。3回やって毎回残る語は、その週の事情ではない可能性が高い。ここが手作業で一番続かない部分で、材料(先週の行動)と過去の丸のついた語を、両方どこかに置いておく必要がある。
LifeOSは、週1回の振り返りで行動の記録を残し、そこから出てきた言葉を時系列で並べておく形を取っている。AIが価値観を判定するのではなく、却下と採用を繰り返した結果が残る場所として使う設計である。診断やカウンセリングを提供するものではなく、言葉を決めるのは利用者自身である。
なお、AIを使わず自分の記録だけから同じことをする全体像は自分の価値観の見つけ方に、既成の価値観リストを材料にする場合の進め方は価値観リストの使い方にまとめている。AIを振り返り全般へどう組み込むかはAIを振り返りに使う方法を参照されたい。
FAQ
却下文を書くより、AIに深掘り質問をさせたほうが速いのではないですか?
目的が違う。深掘り質問は候補語の意味を細かくする作業で、語そのものは動かない。この手順は候補語を捨てて、捨てる理由に出てくる語へ乗り換える作業である。候補語を細かくしたい場合は深掘り、自分の語が欲しい場合は却下、と使い分けるとよい。
20語すべてを却下してしまいました。やり直したほうがよいですか?
やり直す必要はない。この手順で使うのは却下文のほうなので、20語全部が外れでも手順4は成立する。むしろ全却下のときのほうが、手順4で丸がつく語がはっきり出ることが多い。
出てきた3語が、他人の書いたものと似た言葉になりました。
語の見た目が似ることはよくある。見分けるのは手順5で書いた反例で、同じ「丁寧さ」でも反例の場面が違えば、使っている意味が違う。語を変えようとせず、反例を1行足したまま持っておくほうが実用的である。
