断る基準とは、引き受けるか断るかを毎回ゼロから考えずに済むように、自分が先に決めておく判断の線である。 断り方の言い方ではなく、判断そのものを事前に済ませておくための道具である。
この記事で扱うのは、直近で迷った依頼を5件書き出し、そこから線を3つまで作る手順である。紙1枚と20分で足りる。断り文句の例文を増やす話ではない。
金曜18時のチャットに「大丈夫です」と打ってしまう
金曜の18時すぎ。帰る準備をしているところに通知が来る。「来週ちょっとお願いできる?」
内容はまだ書かれていない。量も期限も分からない。それでも指は動いて、「大丈夫です!」と返している。送信してから、来週の予定を開く。すでに2件、自分で入れた作業がある。
土曜の朝、なぜ受けたのか思い出せない。断る理由が無かったからだ、と考えてみるが、断る理由はあった。言葉にする時間が無かっただけである。
来週も同じことが起きる予感がある。
即答してしまうのは性格ではなく、毎回「断る理由」をその場で作る形式になっているから
依頼は相手の都合で届く。会議の直後、退勤の直前、休みの日。つまりこちらが考える体勢になっていないときに来る。
そのとき頭の中で起きているのは比較である。「引き受ける」側は、相手に見せる理由が要らない。「断る」側は、相手に納得してもらえる理由をその場で組み立てる必要がある。片方だけにコストがかかるので、急いでいるときは安いほうが選ばれる。
もう一つある。即答しなければいけない依頼は、実際にはそう多くない。それでも即答してしまうのは、保留の形を持っていないからである。「少し考えます」と返すのも、決まった言い方が無ければその場で考える作業になる。
だから必要なのは、強い意志でも上手な断り文句でもなく、判断を事前に紙の上で済ませて、現場では照らし合わせるだけにする形式である。
手順: 迷った依頼5件から線を3つ作る
準備するもの: 紙1枚かメモアプリ、ペン。所要20分。月1回、5分の見直しを足す。
手順1: 直近1〜2か月で迷った依頼を5件書き出す(7分)
「断ればよかった」と思ったものだけでなく、迷ったが引き受けてよかったものも混ぜて5件書く。片方だけだと、次の手順で引ける線が「全部断る」になってしまう。
1件1行で、内容が分かる程度に短く書く。たとえばこうなる。
- 金曜夕方に来た、来週の資料づくりの手伝い
- 休日の勉強会への参加の誘い
- 後輩から「30分いいですか」と来た相談(結果2時間)
- 他部署からの、前例のない集計の依頼
- 友人からの引っ越しの手伝い
5件そろわないなら3件でもよい。思い出せる範囲で足りる。
手順2: 各件に「受けた/断った」と「今どう思うか」を1行足す(4分)
5件それぞれに、実際どうしたかと、いまの時点での感想を書く。感想は評価ではなく、事実に寄せて書くほうが後で使える。
「受けた/土日が無くなった」「断った/あとで気にならなかった」「受けた/2時間かかったが関係はよくなった」のように書く。
ここでよかった・悪かったの判定を急がない。同じ「受けた」でも、後に残っているものと残っていないものがある。その差が次の手順の材料になる。
手順3: 5件を並べて共通点を2つ探す(4分)
5行を眺めて、後悔が残っている側に共通しているものを探す。よく出てくるのは次の4つの軸である。
- 時間帯: 夕方・夜・休日に来た依頼
- 準備量: 当日だけで終わるか、前の晩に準備が要るか
- 相手: 断っても関係が続く相手かどうか
- 内容: 自分でなくてもできるか、自分しかできないか
「金曜夕方に来たもの2件が両方残っている」「準備が要るもの3件のうち3件が残っている」のように、数で見る。1件だけの偏りは共通点に数えない。
手順4: 共通点を「線」の文に書き換える(3分・3つまで)
見つけた共通点を、現場で照らし合わせられる文にする。条件を1つだけ含む短い文にするのがコツである。
- 「前の晩に準備が必要な依頼は、その場で受けない」
- 「初回の相談は30分で区切る」
- 「休日に場所を移動する依頼は、月に1件まで」
3つまでにする。 4つ以上あると現場で思い出せず、紙を見ない限り機能しない。「〜しない」と「〜まで」の形は、その場で当てはめやすい。
線は「断る条件」ではなく「受ける条件」として書いてもよい。どちらでも、1つの文に条件を1つだけ入れる形にする。
手順5: 保留の言い方を1つだけ用意する(1分)
線に当てはまるか現場で分からない依頼は必ず出る。そのときに使う文を1つだけ決めて、メモアプリに入れておく。
「ありがとうございます。来週の予定を見てから、明日までにお返事します」
長い文はいらない。1つあれば、その場で考える作業が消える。断るか受けるかは、紙を見てから決める。
手順6: 月1回、5分だけ線を見直す(翌月以降)
月に1回、その月に迷った依頼を1〜2行足して、線が合っているか見る。例外が3回続いた線は、線のほうを書き換える。 守れない線を残しておくと、紙そのものを見なくなる。
自分が引き受けたくない仕事の輪郭をもう少し広く洗い出したい場合はやりたくないことの書き出し方、何を優先するかから決めたい場合は価値観の優先順位の決め方にまとめている。
この手順が続きにくい点
この手順の弱点は、紙の上では線が引けるのに、現場で思い出せないことである。
依頼は不意に来る。通知を見た数秒のあいだに「前の晩に準備が必要か」を判定するのは、慣れるまで難しい。慣れる前に、線を引いたこと自体を忘れる。
もう一つは、例外が溜まることである。線を決めた直後は守れる。1か月目に1件、2か月目に2件の例外が出ると、線は「だいたいそういう方針」に変わり、やがて無くなる。例外が出たことを記録していないと、線を書き換えるタイミングも分からない。
どちらも、月1回の見直しだけでは拾いきれない。迷った依頼は月末までに忘れるので、書き留める間隔のほうを短くする必要がある。週1回の振り返りの型は週次振り返りの完全ガイドに書いた。
LifeOSがこの部分をどう扱うか
LifeOSは、AIとの対話で自分の価値観を言葉にして、週1回の振り返りでそれを更新していくサービスである。
上の手順でいちばん落ちやすいのは、手順6の「線を見直す」ところである。LifeOSでは週1回の振り返りが同じ形式で積み上がるため、その週に迷った依頼を1行だけ残しておけば、月末に探し直す作業が要らない。例外が何回続いたかも、記録を並べれば数えられる。
線の根拠になるのは、結局「自分が何を優先したいか」である。LifeOSはそこを対話で言葉にして、週ごとに更新していく形をとる。断り方を代わりに考えたり、受けるべきかどうかを判定したりはしない。扱えるのは、自分の記録と基準を並べるところまでである。まずは3分の体験から試せる: https://app.lifeos.jp/
優先したいことを先に言葉にしたい場合は自分の価値観の見つけ方、大事にしたいことの書き出し方は大事にしたいことの言葉にし方にまとめている。
よくある質問
断る基準を作ると、わがままに見えませんか?
基準そのものは相手に見せるものではない。見せるのは返事だけである。実際には、基準がある人のほうが返事が早く、相手が別の人に頼み直す時間を確保しやすい、という進め方をしている人もいる。気になる場合は、線を「断る条件」ではなく「受ける条件」の形で書くと、自分でも使いやすくなることがある。
線を決めても、その場では断れません
線を決めたあとに必要になるのは、断る言葉より手順5の保留の文である。その場で結論を出さず、紙を見てから返事をする形に変えるだけで、判断の場所が現場から紙の上に移る。それでも返事を変えられない事情がある場合は、この手順で扱える範囲を超えていることもあり、職場の相談先や信頼できる人に状況を共有することを検討してほしい。
基準はいくつまで作ればよいですか?
3つまでを目安にしている。4つ以上になると現場で思い出せず、紙を見るまで判断できなくなるためである。新しい線を足したくなったときは、既存の3つのうち使っていないものと入れ替えると数が増えない。
