仕事の目標が思いつかない状態とは、目標を立てる力が足りない状態ではなく、目標の文に使える材料が手元に1つも並んでいない状態である。 考えても出てこないのは、思い出す作業と決める作業を同時にやっているからで、材料が並べば文は短時間で書ける。
この記事で扱うのは、目標の文を考える前に、直近4週の記録から材料を10行集め、そこから1文を作る25分の手順である。目標の例文を探す作業はしない。例文から始めると、自分の仕事に関係のない言葉が目標欄に残る。
提出日の前夜、目標シートの欄だけが空のまま残っている
期初に目標シートが配られる。他の欄は埋まったのに、「今期の目標」の欄だけが空で止まっている。
考えようとすると、頭に浮かぶのは「もっと効率を上げる」「スキルを伸ばす」といった言葉で、書いてみると自分の仕事の話になっていない。消して、また考える。これを何度か繰り返して、提出日の前夜になる。
最後は去年の目標の言い回しを少し変えて出す。出したあとは見返さないので、期末の面談で「で、これはどうなりましたか」と聞かれて初めて読み直すことになる。そのとき、自分でも何を目指していたのか思い出せない。
出てこないのは、材料のない状態で文を作ろうとしているから
目標の文は、短いのに条件が多い。仕事の内容に合っていて、期間内に終わる大きさで、終わったかどうかが判定できて、しかも人に見せられる言い方であること。この4つを同時に満たす文を、何も見ずに頭の中だけで作ろうとすると止まる。
これは意欲や思考力の問題ではなく、作業の順番という形式の問題である。文を作る作業の前には、材料を集める作業がある。材料とは「自分が実際に何に時間を使ったか」という事実で、記憶ではなく記録から拾うものだ。記憶から拾おうとすると、直近1週間の印象の強い出来事に偏る(先週のことを思い出せない現象は先週のことを思い出せないときの対処にまとめてある)。
もう一つは、提出用の目標と自分のための目標を同じ欄で考えていることである。提出用は評価の対象になるので「達成できそうな範囲」に引っ張られ、自分のためのものは「やってみたいこと」に引っ張られる。向きが逆の2つを1文にまとめようとすると、どちらでもない無色の文になる。
手順: 25分で材料を10行集めて、目標の文を1つ作る
紙かテキストファイルを1枚用意する。目標シートはまだ開かない。
1. 直近4週の記録を開く(3分)
カレンダー、送信済みメール、チャットの自分の発言、タスク管理ツールの完了済み。この4つのうち、見られるものを開く。4週分でよい。それより前は今期の話に使いにくい。
記録が残っていない場合は、この手順は材料が足りないまま進むことになる。その場合は目標を立てる前に記録側を整えるほうが早い(記録が続かないときの軽くし方)。
2. 実際に時間を使った仕事を10行書く(10分)
記録を上から見て、自分が時間を使った仕事を1行ずつ書く。「会議の資料を作った」「問い合わせの一次対応をした」「新しいツールの設定を調べた」のような粒度でよい。
ここでの条件は1つだけ。評価を書かないことである。「うまくできた」「無駄だった」は書かない。事実だけを10行並べる。10行に届かなくても、記録から拾えた分で止めてよい。
3. 各行に「誰が困っていたか」を1語足す(5分)
10行のそれぞれの右に、その仕事がなければ困っていた人を1語で書く。「自分」「チーム」「顧客」「上司」のどれかになることが多い。分からない行は空欄のままにする。
この1語があると、次の段階で目標の文が書きやすくなる。目標は自分の願望の形よりも、誰かの困りごとの形のほうが短く書けるからだ。
4. 来期も続く行に印をつける(3分)
10行のうち、今期も続く見込みのある仕事に印をつける。今期で終わるプロジェクトや、担当が変わる予定のものには印をつけない。
ここで印が1つも付かない場合は、仕事の内容が変わる時期に当たっている。その場合は目標の材料を記録から拾えないので、上司や前任者に「この先の4週で何が始まるか」を聞くほうが早い。
5. 印のついた行から1つ選び、2語で1文にする(4分)
印のついた行を見て、1つだけ選ぶ。選べないときは、3で書いた困っていた人が自分以外の行を優先する。
選んだ行を、「何を」「どこまで」の2語だけで1文にする。「問い合わせの一次対応を、自分以外の人でも回せる状態まで」のような形である。期日と数値はここでは入れない。先に入れると、数値を達成するための目標に変わってしまう。
この1文を目標シートに写す。数値や期日の欄があるなら、写したあとに足す。残りの9行は消さずに、同じ紙の下に置いておく。次の期に材料として使える。
目標の立て方そのものを年単位で組みたい場合は年間目標の立て方、月単位の計画に落とす形は月初に計画を立てる手順にある。
この手順が続きにくいのは、材料集めが記録に依存するから
いちばん重いのは、文を作る4分ではなく、記録を見て10行書く10分である。しかもこの10分は、記録が残っていなければ成立しない。カレンダーに会議しか入っていない人の場合、拾えるのは会議の名前だけになる。
次の期も同じ手順でやろうとしたとき、たいてい記録が足りない。期初にだけ記録を見る形にすると、4週分を遡る作業が毎回発生し、だんだんやらなくなる。これは意志ではなく、材料を集める作業を期初に1回だけ置いている形の問題である。
もう一つは、選んだ1文が地味に見えることである。「自分以外の人でも回せる状態まで」は、他の人の目標シートに並んだ「新規事業の立ち上げ」の隣に置くと小さく見える。それで壮大な文に書き直してしまい、期末に判定できない目標が残る。目標を人と比べて書き直したくなる場面については人と比べてしまうときの自分の軸の持ち方に書いた。立てた目標を期中に忘れてしまう場合は立てた目標を忘れるときの置き場所、目標そのものが多すぎて続かない場合は目標を立てても続かないときの減らし方が近い。
LifeOSはこの部分をどう扱うか
LifeOSは、材料集めを期初の1回ではなく週1回に分散させる形を取っている。週1回の対話で「今週どこに時間を使ったか」が言葉として残るので、期初に4週分を遡る作業が、残っている記録を読む作業に変わる。
選ぶ基準のほうをはっきりさせたい場合は自分の価値観の見つけ方、週次の進め方の全体像は週1回の振り返りのやり方にある。継続そのものを目標の形にする考え方は継続を目標にするときの決め方にまとめた。まず試すなら、LifeOSのアプリで3分の対話を1回だけやってみるのが早い。
よくある質問
記録がほとんど残っていない場合、この手順は使えませんか
材料が足りない状態では10行は埋まらない。その場合は、今週の分だけでよいので先に記録を作り、翌週に同じ手順をやる形になる。目標の提出が今週に迫っているなら、記録のかわりに直近4週のカレンダーだけを使い、拾えた行数で進めてよい。行数が少ないほど選択肢は狭くなるが、頭の中だけで文を作るより材料はある。
評価のための目標と、自分のための目標は分けて書くべきですか
この手順では、材料集めまでは分けずに行い、最後の1文を作る段階で提出するほうだけを作っている。自分のための目標は、残った9行の中から別の機会に選べばよい。同じ25分で2つ作ろうとすると、どちらの文も条件を満たさなくなることがある。
選んだ1文が上司の期待とずれていた場合はどうすればよいですか
この手順は、自分の記録から材料を出すところまでを担当する。ずれているかどうかは、1文を作ったあとに相手に見せて確認する作業になる。確認の前に数値と期日を足してしまうと、ずれていたときに作り直す範囲が広がるので、2語の1文の状態で見せるほうが直しやすい。仕事の優先順位そのものが定まらない場合は仕事の優先順位がつけられないときの整理が近い。
