仕事の優先順位がつけられない状態とは、やることが多すぎる状態ではなく、並べるために必要な情報——期限・終わりの条件・決定権——のどれかが欠けたまま、何が欠けているかも分からなくなっている状態である。 件数ではなく、欠けている情報の種類が問題になる。
この記事では、抱えている件に3種類の記号を振って、記号ごとに違う処理をする手順を書く。必要なのは紙1枚とペン、所要時間は初回25分である。評価や人事の話、他人に仕事を割り振る話は扱わない。
10時から順位をつけ始めて、11時に1件も着手していない
朝、デスクに座って「今日は何から手をつけるか」を考える。Aの資料づくり、Bの返信、Cの確認依頼、Dの見積り、Eの数字まとめ。頭の中で並べ替えて、Aが一番大事だと思って開く。開いた瞬間に「これ、先にBの返事がないと中身が決まらない」と気づいて閉じる。Bを開くと、返信するにはCの確認結果が必要だと分かる。
30分これを繰り返して、結局いちばん短いEのまとめから始める。Eは今日やらなくてよかった仕事である。夕方、AもBもCも動いていないと気づき、明日の朝にまた同じ30分が来る。
残るのは「優先順位をつけるのが下手だ」という感覚だけである。ただ、「今日17時までに提出」と言われた1件なら迷わず着手できているなら、順位づけの能力そのものが低いわけではないのかもしれない。
決められないのは、判断材料が欠けた件を同じ列に並べているから
優先順位をつける作業は、全部の件が同じ条件で比較できる形になっていることを前提にしている。期限が分かり、どこまでやれば終わりか分かり、自分が着手を判断してよい——この3つが揃った件なら、2つ並べて「どちらを先に」は決められる。
実際のリストには、この3つのどれかが欠けた件が混ざっている。
- 期限が分かっていない件(「なるべく早く」と言われただけ)
- どこまでやれば終わりか分かっていない件(「いい感じにまとめて」)
- 自分が決めてよいか分からない件(他部署の返答待ち、上司の方針待ち)
これらを、条件の揃っている件と同じ列に並べると、比較が成立しない。比較できないものを比較しようとして止まるので、止まる時間が長くなる。 本人の感覚としては「決められない」になるが、起きているのは判断の失敗ではなく、入力の不足である。
だから打ち手は、順位をつけることではない。どの件で何が欠けているかを見える形にして、欠けているものを埋める作業と、順位をつける作業を分けることである。この2つは別の作業なので、同じ時間にやると両方止まる。
手順: 3記号に分けて、種類ごとに違う処理をする
紙を1枚、横向きに置く。所要時間は初回25分、2回目以降は10分程度になる。
1. 抱えている件を10分で全部書き出す(10分)
いま頭にある仕事を、1行1件で書く。順番は考えない。粒度も揃えない。「Aの資料」「Bさんに返信」「経費の精算」のように短く書く。10分でタイマーを止める。
このとき、進め方を決めようとしないのが条件である。書くことと決めることを混ぜると、1件目で10分を使い切る。出すだけの作業の型は頭の中を整理する書き出し方、一覧そのものの作り方はやることリストの作り方にまとめてある。
2. 各行に記号を1つ振る(5分)
書いた各行の左に、次の4つのうち1つを書く。迷ったら、より手前で止まっているほうを選ぶ。
- 期……期限が自分で言えない件(相手がいつまでに必要なのかを知らない)
- 終……終わりの条件が自分で言えない件(何を出せば完了なのかを知らない)
- 権……自分が着手を決めてよいか分からない件(他者の返答・判断を待っている)
- ○……期限・終わり・決定権が3つとも分かっている件
ここで大事なのは、1行に記号を2つ振らないことである。2つ以上欠けている件は、より手前の記号(期>終>権の順)を1つだけ書く。2つ書くと処理が2つになり、また止まる。
3. 記号ごとに処理を変える(5分)
記号は、やることが違うという意味である。順位づけはまだしない。
- 期の件……「いつまでに必要ですか」を聞く文を、その場で1行下書きする。送るのは後でよい。聞く相手と聞く文が決まれば、この件は次の処理に進める。
- 終の件……「何を出せば完了か」を自分で1行だけ仮に決める。「A4一枚で数字3つを載せた資料」のように、物の形で書く。確認が必要なら、その1行をそのまま相手に見せて合っているか聞く。
- 権の件……誰の何を待っているかを1行で書き、紙の下の「待ち」欄に移す。待ちに移した件は、今日の順位づけの対象から外す。
- ○の件……そのまま次のステップへ残す。
この段階で、紙の上段には○の件だけが残る。最初に書いた10件のうち○は3〜5件になることが多い。「決められない」と感じていた量の半分以上は、順位の問題ではなく聞く・決める・待つのどれかだった、という形になりやすい。
4. ○の件だけを上から3つに並べる(3分)
残った○の件だけを比較する。条件が揃っているので、ここは素直に並ぶ。並べる基準は、期限が近い順を既定にしておくと迷いが少ない。期限が同じ日に重なったときだけ、「やらなかったら誰が困るか」で決める。
4位以下は順位をつけない。番号を振るのは3つまでにして、残りは紙の下に置く。午前中に3位まで到達しないことが多く、並べた時間が無駄になりやすい。
5. 週に1回、紙を作り直す(10分)
この紙は更新しない。週に1回、白紙から作り直す。 前の紙を見ながら書き足していくと、「期」の件が「期」のまま何週も残り続け、その件を見るたびに止まるようになる。白紙から書くと、消えた件は消えたまま出てこない。
週に1回の時間に何を見るかの整理は週次振り返りで見る項目、全体の進め方は週1回の振り返りのやり方に書いてある。
この手順が続きにくい点
この形にも弱いところがある。
「期」の聞く文が、送られないまま溜まる。 下書きは書けても、相手に聞くこと自体にためらいがあると、その件は「期」のまま毎週出てくる。1行にしておくと送りやすくはなるが、送るかどうかは手順では解決しない。下書きが3つ以上溜まった週は、順位づけをやめて送る作業だけをする日を作るほうが進むことがある。
「終」を自分で仮に決めるのが怖い件がある。 勝手に完了条件を決めると後で手戻りになるのではないか、という感覚は現実的である。この場合は、仮に決めた1行を相手に見せる段階までを1セットにして、「仮決め+確認」で1件と数える。自分の中だけで仮決めを完結させると、手戻りのリスクはそのまま残る。
「権」の待ち欄が長くなると、全体が止まって見える。 待ちが5件以上あると、今日の3件を終えても動いていない感覚が残る。待ちの件は数えず、「いつ催促するか」の日付だけを横に書いて、それ以上は見ない形にすると、気分の重さは減ることがある。
LifeOSがこの部分をどう扱うか
ここまでの手順は紙とペンだけでできる。難しいのはこの先で、毎週同じ種類の件が「期」や「終」で止まり続けるとき、その理由が自分では見えないという点にある。紙は何が止まっているかを示すが、なぜ自分がその種類で止まるのかは示さない。
LifeOS(https://app.lifeos.jp/)は、週に1回の振り返りを前提にしたサービスである。週ごとに残した短い記録を材料に、AIとの対話で「毎週『終』が溜まるのは、どこまでやれば十分だと思っているのが曖昧だからかもしれない」といった形で、判断の手前にある自分の基準を言葉にしていく。やり取りを重ねると、自分が仕事で何を優先したいと思っているのかが、文章として残っていく。
タスク管理ツールではないので、件名や期限を入力して並べる機能はない。扱うのは、紙の上で毎週起きていることをどう読むかの部分である。基準そのものを先に整理したい場合は自分の価値観の見つけ方、順位づけは価値観に順位をつける手順が近い。3分で試せるので、紙が2〜3枚溜まった時点で一度使ってみるのがちょうどよい。
よくある質問
重要度と緊急度で分ける方法とは何が違いますか?
重要度と緊急度で分ける考え方は、全部の件の重要度と緊急度が分かっている前提に立っている。この記事の手順は、その前提が崩れている状態——期限も終わりの条件も分からない件が混ざっている状態——を先に処理するためのものである。3記号で分けたあとに残った○の件なら、重要度と緊急度で並べる方法も使える。順番としては、分けるほうが先になる。
記号を振ったら全部が「権」になりました。どうすればいいですか?
他者の返答待ちばかりになる時期はある。その場合、紙の上段が空になるので、その日は順位づけではなく催促の日にするという判断ができる。これは手順が失敗したのではなく、今日は自分の手元に動かせる件がないという事実が見えたということである。全件が「権」の週が3週続くようなら、仕事の受け方そのものの話になるので、紙ではなく上司や周囲との相談の材料として使うほうが向いている。
毎日この紙を作ったほうがいいですか?
毎日作ると、それ自体が1件の仕事になって続かないことが多い。この手順は週に1回の作り直しを想定しており、日々は前回の紙の上段3件を見るだけでよい。朝に30分迷う状態が週の半ばで再発したと感じたときだけ、もう一度10分の書き出しをするほうが短く済むことがある。
