優先順位マトリクスとは、やることを「緊急かどうか」と「重要かどうか」の2軸で4つの区画に分け、どれを先に手をつけるかを図の上で決めるための道具である。 順位を1位から並べる代わりに、置き場所で決める形を取る。
この記事で扱うのは、4象限を一度書いてから、週1回だけ書き換える運用にするまでの手順である。紙1枚と20分で足りる。タスク管理アプリの設定の話ではない。
書いた4象限を、翌週には一度も見ていない
ある日曜の夜、やることが多すぎて眠れない。ネットで見かけた4象限の図を紙に書いてみる。縦に重要度、横に緊急度。
付箋に12個のタスクを書いて貼っていく。1時間かかる。終わったとき、左上(重要だが緊急でない)に7枚が集まっている。「ここが大事なんだな」と納得して、紙を机の脇に立てかける。
月曜。朝からメールと会議で、右上(緊急かつ重要)のものを順に片づける。火曜も同じ。金曜の夜、紙を見ると左上の7枚はそのまま貼られている。1枚も動いていない。
翌週、紙はもう見ない。2週間後、机の上を片づけるときに捨てる。
図が機能しないのは意志ではなく、1回描いて終わる形式になっているから
4象限は、描いた瞬間に古くなる図である。緊急度は時間が経つだけで変わる。今週「緊急でない」だったものは、来週には「緊急」に移動している。つまりこの図は、作品ではなく毎週書き換える前提の帳簿に近い。
もう一つある。多くの場合、タスクを置く作業に時間がかかりすぎる。12個を1つずつ「これは重要か」と考えると1時間かかり、1時間かけたものは直すのが惜しくなる。惜しくなった図は更新されず、更新されない図は見られなくなる。
さらに、左上に集まった「重要だが緊急でない」ものには、いつやるかが書かれていない。置き場所が決まっただけで、予定に入っていない。予定に入っていないものは起きない。
だから必要なのは、精密な分類でも立派な図でもなく、5分で描き直せる軽さと、左上から1つだけ予定に移す動作である。やることを全部出す側の手順はやることリストの作り方に書いた。
手順: 4象限を書いて、週1回だけ書き換える
準備するもの: 紙1枚(A5で足りる)、ペン。初回20分、以降は週5分。
手順1: 先に全部出す。分類はまだしない(7分)
紙の裏面に、今抱えているものを思いつく順に全部書く。仕事・家のこと・連絡待ちを混ぜてよい。1行1件、15件を超えたら手を止める。
この段階で重要度を考えない。 考えながら書くと、書く速度が落ちて途中で止まる。出す作業と分ける作業を分けるのがこの手順の目的である。
手順2: 紙の表に十字を引き、軸の意味を自分の言葉で書く(3分)
表に大きく十字を引いて4区画を作る。縦軸の上を「重要」、横軸の右を「緊急」とする。ここで軸の意味を1行ずつ自分の言葉で書き足す。
- 緊急 = 今週中に動かないと誰かが待つ、または期限が過ぎる
- 重要 = 3か月後に振り返ったとき、やっておいてよかったと思う
この2行を書かないと、毎週の判定がぶれる。言葉は後から変えてよい。
手順3: 1件5秒で置く。迷ったら右下に置く(5分)
裏面のリストを上から読んで、表の4区画に書き写す。1件に5秒以上かけない。 迷ったものは右下(緊急だが重要でない)に置く。
迷いを右下に集めるのは、そこが後で減らす対象になる区画だからである。左上に置くと、重要なものとして翌週も残り続ける。
15件を5秒ずつなら、この手順は2分弱で終わる。
手順4: 左上から1つだけ選んで、曜日を書く(3分)
左上(重要だが緊急でない)の区画から1つだけ選び、その横に曜日と所要時間を書く。「水・30分」のように短く書く。
2つ以上選ばない。2つ書いた週は、こちらの経験では両方動かないことが多い。1つなら、その30分をどこかに差し込める。
残りの左上は動かさない。今週は動かさないものとして、そこにあってよい。
手順5: 右下を、1つだけ減らす方法を決める(2分)
右下(緊急だが重要でない)から1件選び、やめる・人に渡す・短くする・溜めてまとめてやるのどれかを横に書く。
全部を処理しようとしなくてよい。1週に1件ずつ減らす形にすると、図を書き換えるときに区画の偏りが動いているのが見える。
手順6: 週に1回、5分で書き直す(毎週)
翌週、同じ紙の裏にもう一度リストを書き、表を新しい紙に書き直す。前の紙は捨てずに重ねて置く。
書き直すときに見るのは左上の件数である。左上が毎週増えていくなら、手順4で1つずつ出しているのに入る量のほうが多い、ということになる。その場合は左上の下半分に線を引いて「今期はやらない」と書き、そこへ移す。
週1回の振り返りの中でこの図を更新する場合は、見る項目を決めておくほうが早い。項目の決め方は週次振り返りで見る項目にまとめている。
この手順が続きにくい点
この手順の弱点は、書き直しが「同じことをもう一度書く作業」に感じられることである。
週が変わっても、15件のうち10件は先週と同じである。2週目はまだ書けるが、4週目には「先週の紙を使い回せばいいのでは」と考える。使い回した紙は上から線を引いて直すことになり、見づらくなり、やがて見なくなる。書き直しの軽さがこの手順の前提なので、ここが崩れると全体が止まる。
もう一つは、手順2の軸の言葉が揺れることである。「重要」の定義は、忙しい週には「上司に聞かれそうなもの」に寄り、余裕のある週には「将来のためのもの」に寄る。同じタスクが週によって別の区画に移動し、何週か経つと図の意味が分からなくなる。紙を重ねて置いても、軸の言葉が変わっていることには気づきにくい。
どちらも、週5分の作業の中では拾えない。軸の言葉そのものを、数週間に一度だけ別に見直す必要がある。時間が取れないときの縮め方は振り返りの時間が取れないときに書いた。週1回の振り返りの型は週1回の振り返りの完全ガイドにまとめている。
LifeOSがこの部分をどう扱うか
LifeOSは、AIとの対話で自分の価値観を言葉にして、週1回の振り返りでそれを更新していくサービスである。
上の手順でいちばん落ちやすいのは、手順6の書き直しと、手順2の軸の言葉である。LifeOSでは週1回の振り返りが同じ形式で積み上がるため、その週に左上から出した1件と、右下から減らした1件を1行ずつ残しておけば、紙を書き直す作業の代わりになる。何週か並べれば、左上が増え続けているのかどうかも数えられる。
そして「重要」をどう定義するかは、結局その人が何を優先したいかである。LifeOSはそこを対話で言葉にして、週ごとに更新していく形をとる。タスクの重要度を判定したり、どれをやるべきかを決めたりはしない。扱えるのは、自分の記録と基準を並べるところまでである。まずは3分の体験から試せる: https://app.lifeos.jp/
優先したいことの順番そのものを決めたい場合は価値観の優先順位の決め方、その土台になる価値観の言葉にし方は自分の価値観の見つけ方にまとめている。
よくある質問
4象限のうち、どの区画から手をつければよいですか?
右上(緊急かつ重要)は、放っておいても手がつく区画である。この記事の手順4で動かすのは左上(重要だが緊急でない)で、理由はそこだけが自分で予定に入れないと起きないためである。右下は手順5で減らす側に回す。区画ごとに役割を分けると、どこから手をつけるかを毎週考えずに済む。
タスク管理アプリの中でやってもよいですか?
道具は問わない。ただしこの手順は週1回5分で全部書き直すことを前提にしているので、書き直しが面倒な形だと手順6が止まりやすい。アプリで続けている人もいるが、紙に戻したほうが軽くなる場合もある。どちらが合うかは2週間ずつ試して、書き直せた週の数で比べるのが早い。
重要かどうかの判断がそもそもできません
判断ができないというより、判断の基準が言葉になっていないことが多い。その場合は手順2の2行を先に書くところだけで一度止めて、タスクを置くのは翌週に回してよい。基準が1行でもあると、5秒で置く作業が成り立つようになる。基準が出てこないときは、タスクではなく過去に「やってよかった」と思ったことを3つ書き出して、その共通点を見るほうが先になることもある。
